絡み合った素粒子理論

ミシェル・ブリュン

SFのような話が現実に?---「瞬間移動」が可能になる日

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 物質を情報データに変換し、ある地点から別の地点へ「瞬間移動(テレポーテーション)」させる技術がもうすぐ現実のものになるかもしれない。SF映画『スタートレック』のファンや、交通渋滞に嫌気がさしたドライバーが聞いたら小躍りするような研究が、フランスはパリの物理学者たちによって行われているのだ。

  現在の科学界の常識に真っ向から挑戦する物質の瞬間移動の研究は、まだ第一歩を踏み出したばかりだという。「原子を正確に定義することは不可能である」とするハイゼンベルクの不確定性原理によれば、遠隔地において物質を正確に復元することはできない、はずである。しかし、ニュー・サイエンティスト誌によると、1992年にIBM が発表した「絡み合った素粒子」理論を応用することで、フランスの研究者たちがその限界を打破したという。

  この理論によれば、相互に作用しあったことのある2つの素粒子(これを「絡み合った素粒子」と呼ぶ)には、それぞれ相手の情報を「記憶」する性質がある。そこで、この性質を利用して遠隔地に物質のコピーを送れないかという発想が生まれたのだ。まず、遠隔地へ物質を「瞬間移動」させたい人間は、送りたい物質をこれらの「絡み合った素粒子」の1つに結合させ、受け手側にその素粒子の状態に関する情報のみを伝送する。一方、遠隔地にいる受け手はもう一つの「絡み合った素粒子」をそこに用意しておき、送られてきた情報を元に、物質と結合した素粒子の状況を再現するというわけだ。そこで生まれるのは送りたい物質のコピーだが、すでにオリジナルは情報を送った段階で消失しているため、理屈では瞬間移動したのと変わらない状況が生まれる。

  

●でも「ワープ航法」が実現する見込みは薄い?

  「絡み合った素粒子」の作成にはじめて成功したのは、フランス人物理学者のミシェル・ブリュン博士と、パリ高等師範学校の彼の同僚たちである。現時点では素粒子レベルの成功にすぎず、より大きなスケールで実用化できるようになるのはかなり先のことになりそうだ。しかし、ブリュン博士は今回の成功を大きな前進と見ている。

  「われわれのシステムが機能するのは、まだ原子を構成するきわめて小さな素粒子のレベルに限られている。だが、瞬間移動の技術はまもなく何らかの形で開発できると思う」と、同博士はニュー・サイエンティスト誌に語っている。

  一方、映画の『スタートレック』や『スターウォーズ』でおなじみのワープ航法、つまり光速を超えるスピードで宇宙を移動する技術について、同誌は実現の見込みは薄いとしている。理論上は可能であっても、たとえば『スタートレック』に登場する宇宙船エンタープライズ号にワープをさせようとすれば、推進力に必要なエネルギーだけで全宇宙に存在するエネルギーを上回ってしまうからだ。

 マサチューセッツ州タフツ大学のアメリカ人物理学者、ミッチェル・フェニングおよびラリー・フォード両博士は、この推進方式に必要なエネルギーの量を有名なアインシュタインの特殊相対性理論に基づいて算出した。それによると、エンタープライズ号の船体を光速で移動させるためには、全宇宙に存在するエネルギー総量の100億倍ものエネルギーが必要になるという。

 

 「これはまさに想像を絶する量のエネルギーだ」と、フォード博士はニュー・サイエンティスト誌に語っている。「これを可能にする方法が発見されるとは思えない」というのが同博士の悲観的な結論である。

 

 

 

 

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