1989年

量子脳理論

The Quantum Consciousness Hypothesis

ペンローズ

Roger Penrose

チェスをするコンピューターがあるがこれは単純な算術の積み上げにすぎない、人工知能となる為には、算術的世界よりより深いレベルではそこでなにがおこっているのか本当に理解しなければならない。

 知性をもった機械を生み出すことが、実現できないのは、論理的計算のアプローチによるものだからだ。非計算的事実の存在は「不完全性定理」として証明されている。

 人工知能を考える時、まず我々の脳について考えることが必要だ。ここでは計算はどのようにはたらいているのだろう ?

 人間の脳をニューロン単位で見ると、機械仕掛けに動いているのではなく、量子力学的な"ゆらぎの効果"を用いることで「判断」を可能としていることがわかった。つまり、我々は、予め結果が予測できる機械ではなく、将来に対して意志や決定の権利を持つことが出来る。

 長い進化の過程で人間の脳は量子力学の不確定性を使った、現代科学の能力を超える機能を持つに至った。これが「意志」なり「心」の正体である。

 このような量子力学の原理を用いたコンピューターの開発も検討されている。各メモリ素子には量子磁束が用いられ、複数の量子状態の重ね合わせが計算状態を表現する。

 計算をいくら積み上げても新しい芸術センスの創造はできない。 非計算的物理なのである。

ペンローズ>そうさ、僕らは、単なる知識解明マシーンじゃない。ちょっと冷たく思われるけど、確かに感情や直感によっても判断しているんだ。

 

ZZ:しかし、いまの量子力学は、まだまだ不可能である。

 

ペンローズ>人間の心の天分は、量子力学と相対性理論の両方を統合する、未だに発見されていない物理法則によってのみ説明できるだろう。

量子重力理論、統一理論、万物の理論などいろいろ呼ばれているけど、未だ、量子力学と相対性理論を統合した理論は完成していない。

ソフィー>ところで、意識の生まれる、その場所の特定は?

 

ペンローズ>僕の量子脳理論の最初の著書「皇帝の新しい心」ではあえて特定をさけていたけど、次の著書を読んでもらいたい・「心の影」だ。この中で、マイクロチューブルを可能性としてあげている。

ソフィー>マイクロチューブルって?

ペンローズ>細胞の一種の骨格の機能をするタンパク質の微細なトンネルだ。

ソフィー>ちょっと待って!それはニューロン内だけでなく、ほとんど全ての細胞にあるものじゃないの?マイクロチューブルから意識が生まれるとしたら、肝臓や腎臓だって意識を持てるということになるわ。右足が右に行こうとしても左足が左に行きたがっていたら、私達は一歩も動けないわ。

ハメロフ>医学の見地から僕も1980年にマイクロチューブルが意識の座かもしれないという論文を発表しているよ。最近はペンローズにエールを送っている。麻酔を与えるとマイクロチューブルの中の電子の動きを妨げ意識を抑える証拠を発見したんだ。そこから発展してマイクロチューブルが非決定論的は量子を元にした計算を実行することによって意識を作りだす結論を導き出すことができたんだ。

一つひとつのニューロンはスイッチではなく、コンピューターという結論も同時に導き出された。つまり脳は400億個のスイッチではなく、400億台のコンピューターなのだよ。

ソフィー>量子コンピューターと関連させて説明してくれない?

それから、量子力学と相対性理論が統合できないなら、量子脳理論も未完成ってことよね。

 

ZZ:何れにしても量子的なトリックに還元されるということだね。

賛成派:S・ホーキング(ペンローズの弟子)

反論→マービン・ミンスキー

反論→マレイ・ゲルマン:「ペンローズは2冊の馬鹿げた本を書いているが、その内容は、ゲーデル理論が意識と関係しているとする虚偽の構図の上に成り立っているのだ。意識の説明に他の何かは必要ない。」

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「ペンローズの量子脳理論」 21世紀を動かす心とコンピュータのサイエンス ロジャー・ペンローズ Beyond the Doubting of a Shadow Roger Penrose 1996 年 (訳: 竹内薫+茂木健一郎 1997 年) 徳間書店

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