人を型どった物たち


 「神は自分の姿に似せて人をつくつた」とセリフを聴いたことがあるだろうか?

 人間もまた自分に似せた物を作りたがり、自分を映し出したがる。これは強列な衝動らしい。おそらく人間が最初に自分の姿を見い出したのは、静かな水面に映し出される自分の姿だろう。最初は水面の下に誰かがいると思ったに違いない。未だに多くの哺乳動物がこのレベルにいて、鏡を見せると、攻撃したり、求愛したり、さまざまな混乱をきたす。水面に映し出された個体が実は自分なのだということを発見するだけで数億年かかったといってもいい。これは意識の誕生の瞬間でもあるらしい。おそらく水面の人物が自分だと発見したときは、目もくらむほどの衝撃とともに洪水のごとく押し寄せる意識の波に発狂寸前の状態だっただろう。その後、人は壁に人を描き、木や土で人を型どり、鏡を発明し、最近にいたっては、写真やビデオを駆使して人の姿を写し取る。

 人の形を型どった物には私達のイマジネーションを揺すり立てるのは間違いない。世界中に「マリア像の涙」とかの迷信は存在し、「髪の伸びる人形」の噂は後を絶たない。暗闇では鏡から目をそらしたい気分にならないだろうか?街を歩いていても無意識のうちにショーウィンドウの自分の姿に目が吸い込まれ、おまけにその現場を他人に観られると今度は恥ずかしさと混乱で慌てふためいたことはないだろうか。

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