一九五二年来、アメリカで一人の若い黒人女性が癌のために死んだ。しかし彼女のすべてが死んだわけではない。生前に診察用に切除された肉片が、病院から、組織培養の研究所に渡されていたのである。

 彼女の組織培養を研究していくうちに、ある驚くべき事実が発見された。その細胞は二四時間に一回の細胞分裂を行い、驚異の速度で二倍が四倍、四倍が八倍、八倍が十六倍へと加速度的に増殖しはじめた。最適条件と拡大でさる空間さえ与えれば、彼女の細胞は無限に拡大し数年ののちには全世界を覆ってしまいかねなかった。

 事実もう少しで全世界に広がるところだった。彼女の本名を隠すためヘレン・レーンという偽名が与えられ、組織培養の記号でHeLaと呼ばれた彼女は、その細胞分裂の速度から世界中の医学研究所で引っ張りだことなった。

 小児麻痺のワクチンが大量生産できるようになったのも実は彼女のおかげだった。二〇年以上も文句も言わず働いたが、彼女の生命力は強すぎた。

 一滴でも実験器具に付着すると次の実験物がすべてHeLaに占領されてしまうのだった。癌の実験の為の細胞や、ほかの実験の為に取り寄せたつもりの細胞が、輸送途中でHeLaに食われてしまったこともある。癌を研究していたつもりが実は毎日毎日顕微鏡でHeLa見ていたことになる。

 一転して世界の研究所で、気違いじみたHeLa狩りが行われた。かくて彼女は今では厳重な警備のもと一部の研究所内で眠っているが、いつまたその猛威を振るうか解らないと言う。なにが彼女をそこまで攻撃的にしたのか?いまだにHeLa細胞は謎に包まれている。

 そして彼女は私達の近くにもいる。

 君もB・C・Gを子どもの時に打っただろうか?実はあれはHeLa細胞により増殖されたものだったのだ。

つまり君の体の中にもいる・・・・・・・・・・?

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