<聴く>

 音もやはり耳で聴いているとはいえない、脳で聴いている。更に言えば耳はもともと聴くため作られてない。

 耳はもともとは平衡感覚をつかむために発達した器官である。進化の最後に、鳥類や哺乳類の段階になって、半ば後からの思いつきのように、初期のこうした器官に中耳と外耳構造が加わり外界の多様な音に反応するようになったのである。今や私達にとってなくてはならない大切な器官であるが、今でも魚や亀は耳なしでもなに不自由なく暮らしている。

 しかし単純な構造のわりにその機能は不思議のベールに包まれており、今でも単純な一枚の鼓膜で音の三要素(高さ、大きさ、音色)の微妙な違いが区別できるのかは、どんな高度な理論も説明できないでいる。

 ただ一つ解っていることは耳は音をただ受けているのではなく、音を発しているということである静かな田舎に行くと耳なりのような甲高い音が聞こえてくるが、あれはそら耳でもなんでもない。私たちの耳が昔を発しているのだ。参照波を送り出し、入ってくる昔と相互作用させ、音響的なホログラムを創り出している。単純に外界の音を聴くのではなく、私達の内部で再構成されたパターンを聴くのである。

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