ネオフェリア
ライオンとトラには極めて大きな違いがある。身体的にはほとんど差はないし、皮を剥いでしまえば、解剖学の専門家でしか見分けられないだろう。ところが、生きている時の彼らは天と地ほどの差がある。ライオンは生まれつきの怠け者で、食料さえ十分にあれば、怠惰な生活をいとも簡単に受け入れ、木陰なんぞにこれぞ幸いとばかりに、いくらでもうたた寝にふける。しかしトラはそういかない。彼らは求めるものが遥かに多いのだ。どんなにたらふく食べようと、長時間くつろげない。すぐに退屈してウロウロしたがる。
ライオンとトラのように精神面で動物は大きく二種類に分けられる。ライオン(他に蛇、鷲)のようなスペシャリスト・タイプは人間に飼育されるのに難なく適応してしまう。こいつらを喜ばしておくのはわけはない。好物の餌と適温な寝場所さえ与えてあげれば永遠に満足している。そしてこっちの分類にはいる動物が全体のほとんどを占める。少数派のトラ(他に狼と一部の猿)のような機会を俊敏にとらえるオポチュニスト・タイプは気むずかしいうえにむら気で、時にはノイローゼにかかってしまう。
さて、ヒトはどちらにはいるだろうか?まちがいなくトラ・タイプに入るだろう。ヒトはチャレンジを好み、進んで新しいもの、違うものを求める。無理をしたり、背伸びをするのが大好きだ。刺激を求めてあえて我が身を危険にさらす。一言でいうと「ネオフェリック」つまり「新しいもの好き」なのだ。
「ネオフォビック」(新しいもの嫌い)な連中は専門的才能を発揮するのが得意で、例えば、アリクイはアリを食べるためにあの良い口を進化させた。それはそれで結構だ、アリが存在するうちは。だが、ひとたび食料事情に変化がおこるとアリクイは即、アリとともに古代の化石と化す。専門能力の発揮できないスペシャリストに未来はないというわけだ。これに対してネオフェリック・タイプは徹底した非スペシャリスト指向である。
飽くことなく、探求を続け、環境のなかで自分に有利になるものはないかと気を配っている。絶えずあくせく動き回り、何が起ころうと時に応じて自分を変えていく。つまりこれが、ヒトの進化の秘訣なのである。私達こそ、究極のオポチュニストなのだ。動物学的にはとりたてて得意とする長所は一つもないが、たいがいのことは一通りこなせる。欲望は肉体の限界を越えてさまよい、これが肉体、脳に進化をもたらしたのだ。時には刺激の最後の一滴まで絞りだそうと行き過ぎたむさぼり方もするが、差引勘定するとやはり人間の進化にとってプラスのようだ。
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