利き手の生物学


 「あらゆる作用には、それと同等ながら反対向きの反作用がある」こう指摘したのは、かのニュートンだ。ごく一般的にいって彼の指摘は正しい。確かに二元性は、宇宙を貫く法則ではあるようだ。光と影、陰と陽、男と女、この双方によって世界は特徴づけられているようだ。この考えがよく整理されてるのが中国の陰陽五行説だ。私達の体も基本的に左右対称だ。

 しかし、見た目の左右対称はあくまで表面的なもので、機能的にはだいぶ片寄りがある。なにしろ、私達の八〇%〜九四%までが圧倒的に右利きなのだ。(民族を超えて)これは動物界では人間だけである。石器時代の道具や絵を見るとなんの片寄りもない。(右利きの人が顔を描くと左向きの顔になるからすぐわかる)また、ブッシュマンやアボリジニーなど現代に生きる古代人の多くは両手利きである。利き手は、どうやら農機具から影響を受けた、比較的新しい人類の癖らしい。最初の一本の工具が右利きようにつくられたため、そこからつくられるカマは右利き用となり、そのカマを使った人は、また右利き用の道具を作る。この繰り返しで右利き文化圏が広がったようだ。

 左利きの人は使う脳が違うためか、右利きと逢う才能がある。とくに音楽においては顕著にあらわれる。しかし、現代は完全に右利き社会で、駅の自動改札など、左利きの人にはちっとも便利ではないだろう。ハサミやギター、野球のグローブは左利き用を買い求めるのも困難だし、コンピューター、ドアのノブ、電話のコードの位置にいたるまで日常生活でのストレスは耐えない。心臓に負担をかけることもあるかもしれないが、左利きの人は短命でもある。世のおかあさんたちが自分の子どもを右利きによく矯正するが、あれは絶対止めた方がいい。才能が壊れるし、時には言語障害や、癲癇もちとなる可能性が二一倍も高い。

 ヨーロッパでは、日本より、完全は右手偏重主義で、なにがなんでもなおさせる。右手は正しく、左手は悪魔の手なのだ。キリスト教の祝福は右手で行われるし、協会の回りを時計と反対に回ってはいけない。ローマ法王は右利きが条件だし、悪魔の絵の描くときは決まって左利きだ。だから、切り裂きジャックやビリーザキッド悪党は概して左利きで登場する。(ジェイソンはどうだったかな?)

 人間が作りだした道具により、今や私達自身が変化させられている。そうした私達と密接な関係にある道具や機械は、いまや拡張された生物的機能といってもいいだろう。

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