過去に生命は最後の一雫まで絶滅するような危機に何度かあっている。

 最初の危機はほぼ二五億年ほど前、まだ我々がバクテリアの時に起こった。初期バクテリアは単純な発酵作用を利用して生きていたのだが、その発酵作用に必要な糖と酸の供給が不足し、言ってみれば食料危機に陥った。

 この危機に対して生命は、太陽の光と炭酸ガスによる炭酸同化作用によりエネルギーを取り込む方法をみつけ乗り越えた。結果、炭酸同化作用によって以前の形態よりはるかに豊富なエネルギーを利用できるようになり、危機に遭遇して生命はかえって自由を獲得できたといえる。

 第二の危機は皮肉なことに前の危機を乗り越えた炭酸同化作用が普及しすぎたことによってもたらされた。炭酸同化作用は副産物として酸素を発生させるのだが、酸素は当時の生命にとっては、生命を維持していく分子を破壊する有害物質でしかなかった。一五億年間の炭酸同化作用の結果、酸素が充満し、全ての生命が危機にさらされるほどになった。この危機に生命は非常にユニークは回答をだした。自分を危機にさらしている酸素の破壊的作用こそを利用してエネルギーを得たのである。しかもこの方法により発酵や炭酸同化作用と比べてはるかに効率的で、更に幅の広い資源を利用できることができるようになったのである。

 第三の危機は一七億年前に起こった別な意味での食料危機だ。巨大化をめざすのが、当時の生命の主流であったが、細胞が大きくなると、単細胞であると直径が二倍になると表面積は二倍、体積は八倍になる。そこで二倍の速度でエネルギーを取り込まねならないため大きくなればなるほど自分を養うのが困難になってきた。この時に生命が見つけだした方法は多細胞生物だった。つまり、細胞は同じ大きさのままで、たくさんの細胞から構成され自由に大きく成れる真核生物となったのだ。

 この二五億年以来私達の細胞は危機に遭遇するたびに逆に自由を得てきた。私たちの細胞の最後の一雫までも自由をめざすようにできているのだ。

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