1968年 |
カタストロフィー Catastrophe Theory |
R. トム |
「原因がわずかずつ変化すると、結果も正比例的にわずかずつ変化する」本当だろうか?
例えば、水蒸気をある温度以上の条件で圧力を少しずつ上げていくと少しずつしか水に相転移しない。
しかしそれよりほんの少し低温の水蒸気に圧力を加えると急激に一気に水に相転移する。
こうした急激な変化によって、物事が不連続的に移りゆくようすを数学的にあらわすため、フランスの数学者R.トムが
トポロジー(位相数学)を科学全般に応用しようとしてとなえた理論がカタストロフィーだ。カタストロフィーとは、大変動、破滅といった意味である。
自然界でも社会でも、日ごろ、おだやかに推移していたものが、突然、劇的に変化するという例は多い。たとえば、金属が何度も流体の圧力をうけたり、手で折りまげられたりすると、あるとき急にポキンとおれてしまう。地殻をつくっている岩板(プレート)は、ふだんはひじょうにゆっくり移動しているが、プレートどうしでおしあうひずみが限度をこえたようなとき、はげしい動き(地震)をひきおこす。生物の体の中で少しずつ変化がおこると、あるとき幼虫は姿形を劇的にかえて、蝶に変身する。
こうした現象をあつかうには、なめらかな変化を解析してきた微積分の手法だけではなく、物事が不連続的にうつりかわるパターンをしらべるため、トポロジーをはじめとする現代数学のさまざまな手法が必要になる。カタストロフィー理論は、1968年にトムが発表して以来、生物学や社会科学をふくむ多くの分野の研究者の心をとらえてきた。
カタストロフィーは生物学最大の謎の一つである形態形成を解き明かすことになるかもしれない。
ここの細胞の局所的な遺伝子暗号がどのようにして胚全体の変化を引き起こすのかについて、数学的手法でこの謎に迫ろうとしている。
ダーシー・トンプソンは1914年に「成長と形」のなかで、魚を方眼紙に描きそのグリッドを変形させると近縁のいろいろな魚が描けることを示した。そしてこの手法を発展させるとカニの甲羅と人の頭蓋骨も同じでアーキテクトをもっていることも示した。
この研究は有機体の全体的は設計図はトポロジーを基礎としていることを強く示唆している。有機体の固有の幾何学的形状は後になってそれを埋めていくために有機体は進化の過程での変化がたやすくなる。
当面の大問題はどのようにして有機体の基本的トポロジーが特定されるかである。形態形成はたんに正しい種類の細胞が、成長する胚の適切な場所に集まって生じるのではない。
実際、発生の初期段階では細胞の種類は通常決定されてないである。
汎用型の細胞が筋肉細胞になったり脳細胞になったりするのはなぜなのか?
このことに最初の回答をだしたのがコンピューター科学者アラン・チューリングであった。
1952年にチューリングは様々な化学成分の反応と拡散の過程に関する数学モデルを提唱している。そうした化学成分を「形態形成素」(モルフォゲン)とよんでいる。
さらにこのアイデアを洗練発展させていき、各細胞の最終的な運命はさまざまな形態形成素の濃度によって決定されるという現在の共通理解をもたらした。
発生生物学はその背後にある数学的モデルを書き下すには非常に難しく数学と哲学を間の領域にあるように思われがちだが、今、ようやくこのプロセスを記述できる可能性が認められたのである。まだ洗練の余地があるが、それでもメカニズムが解明されないからといって、知識の探求を怠ってはならないのである。
物理学から生物学へのシフトは物理学から半物理学(セミフィジック)へのシフトとしてとらえられる。生物学は物理学の一部であるとされた一部の還元論者から、生物学の一部が物理学であるとのパラダイムの転換が起こったのである。
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123 「 複雑性とパラドックス」 なぜ世界は予測できないのか? ジョン・L・キャスティ Complexification John L.Casti 1994 年 (訳: 佐々木光俊 1996 年) 白揚社|