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=教授・学習過程論(‘02)=(TV)
−学習の総合科学をめざして−
〔主任講師: 波多野 誼余夫(放送大学教授)〕
〔主任講師: 永野 重史(国立教育政策研究所名誉所員)〕
〔主任講師: 大浦 容子(新潟大学教授)〕
全体のねらい
ヒトという種は、単に生物として進化してきたばかりでなく、文化という人工物の体
系を作り上げ、それを各個体が学習
により内化することで有能さを増大させてきた。その意味で広義の学習ないしそれを
援助する教育が決定的に重要なことは
確かだし、子どもの側には成人の行動様式を真似ようとする傾向、おとなの側には子
どもに教えようとする傾向が元々備わ
っているらしい。さらに、実践と並行させて学習の援助をある程度意図的、計画的に
行おうとする試み(例えば徒弟制度)
も、古い歴史を持つ。こうした広義の教育=学習の援助の過程について考えるところ
から始めたい。「教育」というと小学
校、中学校など、学習者の将来の生活のための一般的な準備を行う機関での教育のこ
とを指すと受けとられがちだが、学校
は多様な教育の機会の一つにすぎず、まして今日見られるような欧米型の学校が普及
したのはわが国でもここ百年たらずの
ことでしかない。制度としての学校は、人々の全面的な支持を得ているといえないど
ころか、それに対する非難や批判が高
まりつつあるようだ。しかし、今日の高度に技術化された社会の教育において学校が
占める位置は無視できないものである。
ここでは、学校の独自の役割が何かを吟味するための知的基盤を提供したい。
回 テーマ 内 容
執筆担当
講師名
(所属・職名)
放送担当
講師名
(所属・職名)
1 発達、学習、社会化
最近の比較認知科学や進化心理学に基づき、ヒトの生物学
的特徴とその由来について論じる。その発達の過程で、文化
という人工物の体系を各個人が学習により内化すること、こ
うした広義の学習ないしそれを支援する教育が決定的に重要
なことを述べる。
波多野誼余夫
(放送大学教
授)
波多野誼余夫
(放送大学教
授)
2 人間行動の生物学
的基盤
ヒトにもっとも近い種である、チンパンジイをはじめとす
るヒト以外の動物の社会的知能、認知や学習についての最近
の報告から、人間行動がいかなる生物学的基盤を持っている
のか考える。 同 上
藤田 和生
(京都大学大
学院教授)
3 言語を生み出すの
は「本能」か
米、欧で大ベストセラーになった言語の生得なる基盤を証
明するピンカーの著書と、これに対する、言語獲得の社会的、
実用的基盤を強調する立場からのトマセロの批判を手がかり
に、言語の本質を論じる。 同 上 波多野誼余夫
4 素朴理論
最近の概念発達研究によれば、乳幼児はかつて考えられて
いたよりもずっと知的に有能な存在であり、世界の限られた
側面についてではあるが、特徴的な因果的説明を行うことの
できる知識の体系を持つという。このことを実験的に示す。
同 上 同 上
5 言語と思考
子どもの用いる言語が彼らの思考をどように形成するか、
異なる様式の言語コミュニケーションが要求されることで彼
らの学習がどれほど困難なものとなるか、読み書き能力の習
得がいかに知的発達と関わるか、などを検討する。
永野 重史
(国立教育政
策研究所名誉
所員)
永野 重史
(国立教育政
策研究所名誉
所員)
6 熟達化
初心者と熟達者の知識、技能の差異、さまざまな領域にお
ける熟達化の諸相、熟達の型の違い、熟達を促進する経験な
どについて述べる。 大浦 容子
(新潟大学教
授)
大浦 容子
(新潟大学教
授)
2
回 テーマ 内 容
執筆担当
講師名
(所属・職名)
放送担当
講師名
(所属・職名)
7 教育の諸相
教育とは広く学習を援助しようとする意図的、意識的な営
みであり、学校教育はそのごく一部にすぎない。徒弟制や実
践への参加という形態での教育のもつ強みや限界について考
える。
大浦 容子 大浦 容子
8 問題解決と理解
構成主義の学習観では、知識は伝達されるのではなく、問
題解決や理解活動の過程で、次第に構成、洗練、改定される
と考える。この意味で教育活動の中心となる問題解決や理解
活動に関し、これまで行われてきた研究成果を総覧する。 波多野誼余夫 波多野誼余
夫
9 学習における協調
学習はしばしば対人的相互交渉のなかで行われるが、とく
に協調的学習はさまざまな促進的効果を持つ。他者に説明す
る過程で自らの考えを外化し、内省の対象にすることができ
るし、相互の考えを持ち寄ることで創造的な発展も期待しう
る。
同 上
三宅 なほみ
(中京大学教
授)
10 学習環境のデザイン
学習の科学は、いかに教えるべきかの処方せんを提供する
わけではないが、それを考える基盤を提供する。学習目標に
より効果的な学習環境のデザインは異なるが、ここではとく
に新しい事態に柔軟に適応しうる学習者を育てる環境デザイ
ンの原理について考察する。
同 上 同 上
11 動機づけ、転移
学校での学習においては学習者をいかに動機づけるかが、
くりかえし問題になってきた。また、学校で学習した知識や
技能が、学校外の問題解決に転移しにくいこともくりかえし
指摘されている。こうした問題についての学習科学からの示
唆を論じる。
永野 重史 永野 重史
12 教育における情報
技術
コンピュータは、単に技能の習熟を苦痛なしに行わせたり、
理解のためのさまざまな事例を効果的に提示するにとどまら
ず、なかば時空を超えた相互交渉とそれにもとづく学習の展
開を可能にする。こした方向の試みを紹介する。
波多野誼余夫
大島 純
(静岡大学助
教授)
13 教育のための評価
評価には、学習者の状態を知って教育計画を立案したり修
正したりする、という側面と個々の学習者に成績を付与する
という側面があるが、従来は両者がはっきり区別されず、そ
のため評価が教育活動に生かされないことが少なかった。教
育活動の一環としての評価について述べる。
永野 重史 永野 重史
14 学習の認知神経科学
脳と心の関連についての関心が高まるなか、高次の学習の
理解にも、認知神経科学からの寄与が期待されるようになっ
た。急速に進展しつつある認知神経科学からの知見のうちで、
学習科学にとって見落とせないのはどんなことか、今後期待
されるのはどんな発展かを論じる。
波多野誼余夫
酒井 邦嘉
( 東京大学大
学院助教授)
15 文化の中の学習
学習すなわち知識獲得の過程は、社会文化的文脈により直
接に影響されるのみならず、社会文化的価値の内化された形
態ともいうべきメタ認知的信念(例えば学習観)によっても
影響される。したがって、教育技術を輸出入することには慎
重でなくてはならない。
同 上
北山 忍
(ミシガン大
学教授)--------------