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=発達心理学(‘02)=(TV)
〔主任講師: 内田 伸子(お茶の水女子大学大学院教授)〕
全体のねらい
ヒトは回りの人々との対人的やり取りを通して人間化、文化化への道を辿る。人間は
生物学的な制約を受けながらも環境
刺激によって道程が規定されながら発達を遂げる。発達の可塑性はきわめて大きく、
しかも生涯発達し続ける存在である。
本書は「生涯発達」・「文化」・「生涯学習」の視点に立ち、気質、感情、対人関
係、自己意識、言語、思考など発達の諸
相を描き出す。各章末には、その章で扱われた領域での代表的な研究を取り上げ、
「研究ノート」として解説することによ
り、その領域における問題意識を具体的な研究課題にまで収斂させる方法論を読者に
知らせることをめざしている。
回 テーマ 内 容
執筆担当
講師名
(所属・職名)
放送担当
講師名
(所属・職名)
1 発達心理学の課題
と方法
1950 年代以降の発達心理学研究の動向を概観して発達心理
学がどのような科学でありどんな役割をになっているもので
あるかを考察する。さらにそうした課題がどの程度達成され
ているのか、今後なすべきことはどのようなことであるかに
ついてもふれる。次に発達心理学研究において用いられる主
要な方法について紹介する。最後にこの科目全体の構成とそ
のねらいについて説明する。
三宅 和夫
(北海道大学
名誉教授)
三宅 和夫
(北海道大学
名誉教授)
2 発達初期の子ども
の能力
かつては新生児・乳児は無能な存在とみなされていて心理
学の研究はこの時期のことをあまり扱っていなかった。とこ
ろが20 世紀半ばを過ぎるころから、この時期の発達について
の研究が盛んになり、新生児・乳児が素晴らしい能力を持っ
た能動的な存在であることを明らかにするような実証的資料
が次第に蓄積されてきた。ここではこうしたことについて具
体的に研究例をとりあげて説明し人間の発達における発達初
期の意義を検討する。
同 上 同 上
3 気質と行動の発達
誕生後間もない新生児であってもその行動特徴においてか
なりの個体差が見られることが知られている。それは生得的
なものであると考えられるが、養育にあたる母親などに少な
からず影響を及ぼすものである。ここではこのような生得的
基礎をもつ行動特徴すなわち気質についての主要な研究を紹
介し、さらに発達初期の気質がどのようにその後の行動発達
とかかわっているかについて考察し、さらにそのことを通じ
て発達の安定性・可変性の問題についても検討する。
同 上 同 上
4
世界を捉えるしく
み:象徴機能の発生
とことばの獲得
子どもは誕生時から感覚器官をフル回転させて環境と活発
にやりとりしている。環境との感覚運動的なやり取りを通じ
て外界の認識を形成しているが、乳児期の終わりから対人的
やり取りの中で視覚的共同注意や社会的参照、3 項関係の成立
に伴い、象徴機能が獲得され内面世界が成立するようになる。
ことばは象徴機能を基盤に、生物学的制約と環境からの入力
により獲得されていく。ことばの獲得は世界認識や対人関係
の拡大をもたらす。
内田 伸子
(お茶の水女
子大学大学院
教授)
内田 伸子
(お茶の水女
子大学大学院
教授)
5 情動の発達
情動表出や情動知覚の研究、情動のダイナミックシステム
的アプローチを紹介しながら、情動の古典的理論と最近の機
能主義的理論を比較しながら説明する。情動と行動との関係
について、情動とコミュニケーション、情動と社会的行動、
不安やディストレスの制御、ディスプレイルールの発達につ
いて研究を中心に説明する。 また、情動の個人差について、
気質と情動の関係、情動体験と自我、情動の文化差という観
点から紹介する。
氏家 達夫
(名古屋大学
教授)
氏家 達夫
(名古屋大学
教授)
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回 テーマ 内 容
執筆担当
講師名
(所属・職名)
放送担当
講師名
(所属・職名)
6
他律から自律へ:
母子システムと自
律の発達
自律性の発達を生涯発達と文化の観点から説明する。自律
性は文化的文脈の中で、子どもの状態の調整やしつけなどの
親要因と、気質特徴、愛着、反抗などの子ども要因との相互
作用を通じて発達する。子どもは他律的存在から自律的存在
へと発達する。自律性は大人の発達課題でもある。子どもを
育てる過程で親自身も成長する。そこには自律性の部分的な
放棄が含まれる。成人期において自律と他律の新たなバラン
スが求められる。
氏家 達夫 氏家 達夫
7 対人関係の発達
乳幼児期から老年期までの対人関係の発達を扱う。人は生
まれたときから家族の一員としての生活が始まり、家族の中
での人間関係は発達にとって最も重要な環境を構成する。家
族にとっても新たなメンバーの加入により、そのシステムの
変容が起こり、メンバーそれぞれの年齢の変化にともないメ
ンバー相互の間の関係の質も大きく変わっていくプロセスと
メカニズムを考察する。また、家族の外の人間関係、特に仲
間関係の影響も触れる。
臼井 博
(北海道教育
大学教授)
臼井 博
(北海道教育
大学教授)
8
想像力の発:
思考能力の拡大と
ディスコ ースの成
立へ
子どもの拡散的思考、想像力は生活や対人的やり取りの中
で発達していく。 想像力の発達と軌を一にして、幼児期後期
には、世界や自己を語る手段としてのディスコース(談話や
文章、物語)が成立する。幼児初期〜児童期にかけての、デ
ィスコースの表現形の変化を追跡し、その表現をささえる創
造的想像のメカニズムや認知機能について考察する。またの
成立を支える創造的想像のメカニズムの発達について表現形
の変化から探る。
内田 伸子 内田 伸子
9 日本の幼児教育実
践の特徴
日本の幼児教育の実践の特徴を主にアメリカのそれとの比
較を通して描き出していきたい。具体的には最近のアメリカ
と日米の研究者たちの日米の幼児教育場面のエスノグラフィ
ーや調査データを利用しながら、実際の教師の実践の方法、
その背後にある教育の目標、児童観の違いを考察する。特に、
教師のもつ土着的な教育方法に関する素朴理論
(ethnopedagoy)を取り上げて、分析を行う。
臼井 博 臼井 博
10
学校文化のディス
コ ース:
書くこと・考えるこ
と
子どもが生活の中で育んできた一次的ことばは読み書き能
力の獲得にともなって二次的ことばへと重層的な発達をとげ
る。読み書き能力によって時間・空間を隔てたコミュニケー
ションが可能になるとともに思考の手段として内面世界に深
く関わるようになる。読み書き能力を獲得するという課題は、
学校文化に適応することにつながっている。作文の情報処理
過程や自分史の意義の考察に基づき、書くことと考えるこ
と・生きることの関わりについて探る。
内田 伸子 内田 伸子
11 学校での学び
学校で学ぶこととして、いわゆる認知的学習のほかに、社
会的なスキル、さらには知的な課題解決の構えに影響する動
機づけシステムの発達について、学校文化と関連づけて考察
する。また、学校における社会化の重要なagent としての教師
の子どもとの相互交渉のしかた、教師自身の職業的な発達に
ついても考える。その場合、教育実習の効果を含め、教師教
育の在り方についても生涯発達の視点から考察する。
臼井 博 臼井 博
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回 テーマ 内 容
執筆担当
講師名
(所属・職名)
放送担当
講師名
(所属・職名)
12 メディアからの学び
現代社会は産業によって供給される情報伝達手段や情報表
現手段が多数あり、大人と同様子どもも長時間接し、特に家
庭や学校などを越えた広い世間への窓になっている。最初に
接する活字メディアとしての絵本は親子の人間関係の中で本
への導入を行う。その後、読書へと発展する。テレビ、テレ
ビゲームは映像的メディアとして新たな活動を生み出し、子
どもに大きな影響を与える。電話やインターネットが新たな
人間関係を作り出している。
無籐 隆
(白梅学園短
期大学学長)
無籐 隆
(白梅学園短
期大学学長)
13 「臨床実践の発達
的基礎」
発達心理学は、子どもから成人の発達を検討することを通
して、発達の歪みやそこで生じる心理的問題の発生的根拠を
示す。だが、その発生の要因は単一であることは滅多にない。
多くの「危険(リスク)」要因が関与し、また要因に影響さ
れる度合いの個人差も大きい。例として、うつ病や食異常の
問題を取り上げ、発達的リスク要因を解説する。また、家族
や学校におけるメンタルヘルスの保持への教育や介入の代表
的方法を紹介する。
同 上 同 上
14 自己意識の発達
1歳頃の身体的自己の成立から初め、4歳頃に心が実体と
して存在することを理解する。そこから児童期に掛けて、自
己概念が次第に成立する。児童期の後半に入ると他者との比
較による自己概念が成り立ち、自己尊重感の程度が重要にな
る。思春期に入ると、孤独感も感じるようになり、自己の見
直しが行われる。その模索から成人期に入る頃に大人として
どう生きるかの自覚が成り立つが、その見直しは生涯にわた
り繰り返されるだろう。メディア毎に年齢を追って記述する。
1)絵本への接触、2)本への導入、3)テレビメディアへ
の接触とテレビ的世界への導入、4)テレビゲームと架空世
界の楽しみ、5)電話とインターネットが変える人間関係の
トピックスを取り上げる。
同 上 同 上
15
成熟と老い:
成人期〜老年期の
学び
中年期の発達について、既存の理論や研究と同時に、現在
行っている追跡研究からいくつか事例を紹介しながら説明す
る。エイジングは発達ととらえることができる。個人は、さ
まざまな変化にアクティブに適応している。それは、心理的
適応という側面と新たな技能の習得という側面からなってい
る。個人は老いるということを学ぶのである。また、心身と
もに健康を保っている高齢者の研究を紹介し、豊かな老いに
ついても考える。
氏家 達夫 氏家 達夫