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=認知行動科学(‘02)=(TV)

−心と行動の統合科学をめざして−

〔主任講師: 西川 泰夫(放送大学教授)〕

全体のねらい

認知行動科学は、自らの心と行動を総合的に問い豊かな自己認識を図ることを試みる

新たな「心の科学」である。また、

自律的個性的な自己実現にとって心身の健康問題は重要な課題の一つとなるので、あ

わせて具体的な実践と応用のための技

術や方法論と、そのもとにある基本的な心観(パラダイム)や原理・理論を詳細に検

討する。

回 テーマ 内 容

執筆担当

講師名

(所属・職名)

放送担当

講師名

(所属・職名)


1

プロロ−グ

−認知行動科学の

めざすもの−

認知行動科学の大枠となるパラダイムを呈示し、当放送講

義の全体像を概略紹介する。従来の「心の科学」(認知科学、

認知論)ならびに「行動の科学」(行動論)の理論的な統合

化のもとで総合的な自己認識と他者認識をはかり、自他にお

ける心身の健康問題や豊かで安全な社会形成への実践と応用

のための技術・方法論のもとになる基本的な原理やパラダイ

ムを詳細に吟味・検討する。

西川 泰夫

( 放送大学教

授)

西川 泰夫

( 放送大学教

授)


2

認知行動科学の基

礎(1)

−二大パラダイム

の再吟味−

歴史上代表的な二大「人間観」である「認知(心)論」と

「行動論」の統合化をはかり総合的統一人間科学「認知行動

科学」を構築するために、各々の個別分野における心観、行

動観を基本から再吟味する。また、心身問題への対応をめぐ

り両観点の比較検討を行う。

同 上 同 上


3

認知行動科学の基

礎(2)

−認知論−

二大パラダイムの統合における難問の一つである「心身問

題」への取り組みをもとに、私の心と行動を統合的にいかに

とらえ認識可能か検討する。第一の論点である「認知論」を

ふまえ心身の健康問題をはじめ自己認識をより良く達成する

ための実践法となる認知療法や認知的カウンセリングの基本

原理や前提の検討を試みる。

同 上 同 上


4

認知行動科学の基

礎(3)

−行動の科学、行動

論−

「心身問題」を吟味するさいのもう一つの論点である「行

動論」の紹介を行う。この立場は、必要なことは心の解釈と

説明を行うことではなく(あるいは、心やその概念を排除す

る)、なぜそう行動するのか、当該行動を制御している制御

変数を行動の場、環境事象の中に特定することである。した

がって、心は身体に還元される。では、行動の基本法則とは。

また、自らの心身の健康維持促進を決定的に左右する行動様

式とは。新たに提唱される「行動医学」、自律的健康維持の

ための「行動療法」、「行動修正・変容法」とは。

同 上 同 上


5

行動の科学(1)

−I.P.パヴロフ

の条件反射学−

二大パラダイムの歴史的な成立経緯から、まず「行動の科

学」における人間観を整理する。そのさいのキーワードの一

つが「科学」である。この科学的認識活動による新たな「人

間科学」とはどのようなものであったか。その第一歩となっ

た条件反射学を再吟味する。「精神的(心理的)分泌」と名

付けられた現象の解明がことの発端である。その結果、心と

は決して不可思議な非物質ではなく、その物質的基盤となる

脳のモデルへと展開する。

同 上 同 上


6

行動の科学(2)

−J.B.ワトソン

の行動主義−

自らの科学的な理解(自己認識)のために第三者により観

察可能であり検証や反証のできる対象として選ばれたのが

「行動(刺激ー反応の結び付き)」に他ならない。そうした

行動の形成と修正のための方法論や技術の背景となる「行動

主義」の観点を考察する。

この基盤として、パヴロフの条件反射学、ならびに条件付

け操作がある。また、なぜ「行動」を問題にするのか。彼の

「行動心理学」、いな「行動の科学」を吟味する。

同 上 同 上

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回 テーマ 内 容

執筆担当

講師名

(所属・職名)

放送担当

講師名

(所属・職名)


7

行動の科学(3)

−媒介過程論、動因

論−

行動の制御変数としての生体内部の過程への見直しと、そ

の見えざる対象をいかに科学的に可視化するか。刺激変数と

反応という外的観察可能な変数の操作から規定される刺激−

反応関係をもとにしたその間をつなぐ媒介物質過程をいかに

科学的対象として取り出しうるか。この内的過程をあらため

て「心」とよぶことが可能になるのか。その新たな「心」の

機構と機能、ならびにその概念をめぐる展開の紹介。行動を

左右する内的媒介変数としての「動機論」、「動因論」など

を吟味する。

西川 泰夫 西川 泰夫


8

行動の科学(4)

−B.F.スキナー

のオペラント心理

学−

実験行動分析学(オペラント心理学)を提唱するスキナー

独自の観点の吟味と、その応用である応用行動分析学、行動

療法をはじめ、教育工学、行動薬理学などを紹介する。スキ

ナ−の基本命題は、「なぜ生き物はそのように行動するか」

と問うことである。またその答えは、生体の自発行動(オペ

ラント行動)の表出場である同じ環境事象の中に当該行動の

生起確率を左右する制御変数をみいだすこととみなす。その

さい、彼は、三項関係(機会刺激(弁別刺激)−オペラント

行動−強化の随伴性)を基本として、独特の理論展開を図る。

同 上 同 上


9

パラダイム・シフト

−認知論の台頭、高

次精神現象−

台頭してきた新たなパラダイムである認知論、ならびに認

知心理学に対する、反対の立場の急先鋒であるスキナ−の態

度は、当初から徹底しており一貫している。また批判してや

まない。その理由は、彼の理論からみると、「認知理論」は

排除すべき代表的な「理論」の一つであるからである。では、

「認知論」における主題であるあらゆる心的過程、高次精神

事象や心の概念は、いかなる科学的根拠において不可欠と理

解され、主張されるにいたったのであろうか。最終的な「認

知革命」と称されるようなパラダイム・シフトが生じる過程

での、多様な高次精神事象を取り扱った、また内容も身近な

実験事例を紹介する。

同 上 同 上


10

コロンバン・シミュ

レ−ション計画

−ハトによる認知

過程のシミュレ−

ション−

コロンバン・シミュレ−ション計画とは、ハトを用いた認

知過程のシミュレ−ション研究計画である。この計画は、オ

ペラント行動心理学の提唱者であるスキナ−の最晩年におけ

る研究計画である。当時、心理学の基本パラダイムは、行動

論、行動心理学に代わって認知論、認知心理学へと移行し始

めていた。これに徹底的反論を展開したのはスキナ−である。

彼が排除すべき「理論」の典型的理論である「認知論」を認

めるはずもない。心や、高次精神現象と称される現象を、チ

ンパンジ−(霊長類)以下でしかないハト(鳥類)を用い行

動的に形成し、記述する。9章で紹介した実験例への反証で

もある。

同 上 同 上


11

「心の科学」(1)

認知革命−「行動の

科学」から「心の科

学」への回帰ー

心理学の内部で繰り広げられていたパラダイム論争に加

え、新たに心理学外での諸科学の興隆に伴い、心理学への多

くの影響がおよぶにいたり、心理学は、それまでの「行動の

科学」から「心の科学」への大幅な移行、回帰といってもよ

い変化が生じた。これを「認知革命」とよびさえする。それ

は、あらためて心的過程をはじめ、メンタルな概念での行動

の説明が可能になるのに伴う、パラダイム・シフトに他なら

ない。その背後にある外圧ともいうべき新たな展開は、情報

理論、コンピュ−タ・サイエンス、数理言語学に起こった出

来事による。情報理論を中心にその変遷を概括する。

同 上 同 上

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回 テーマ 内 容

執筆担当

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12

「心の科学」(2)

−認知心理学の成

立、システムを流れ

る情報の観点から

新たな「心の科学」を目指す「認知論」に立脚した「認知

心理学」の具体的な事例実験研究を紹介し、「心」の概念の

再吟味を試みる。そのさいの中心的なパラダイムを一言で示

すと、「心とは、情報の処理・操作システムである」、ある

いは「心とは、システム・コントロール情報処理システムで

ある」という言明、命題に集約されよう。このことは、ある

まとまりをもつシステム全体を情報の流れの中で固有の機能

を発揮するさまざまな下位システムの有機的集合体とみる立

場でもある。この観点は、生物にとどまらず機械をはじめ多

くの人工物、物理事象を含みそれらを共通の基盤に立って論

ずる新たな道を開く。

西川 泰夫 西川 泰夫


13

「心の科学」(3)

−心はコンピュ−

タか−

いわゆる認知革命をもたらした大きなインンパクとの一つ

が、コンピュ−タの発明にあることは論を待たない。その特

色の一つとして、情報のコントロ−ル・システム、情報の処

理・操作システムであることをあげることができる。そして、

心の基本的な営みに重ねて論じうる可能性を前章12章で議

論した。さらには、その基本構成要素、ユニットが情報の流

れの中で果たしている情報コントロ−ルシステムとしての特

色や機能を実証的に考察できた。この情報を直に担っている

のが、記号系であることも指摘した。その意味では、コンピ

ュ−タも人の心も同じく、記号の処理・操作システムである

という命題が成り立つ。では、「心は、コンピュ−タである」、

という言明、命題は成り立つのであろうか。こうした可能性

を論ずる新たな「心の科学」、「認知科学」の動向を紹介す

る。

同 上 同 上


14

「心の科学」(4)

−「考える」とは、

記号論理学をもと

に−

心身問題の解決を探る現代の心の科学における基本方針

は、システムを行き来する記号あるいは情報をキ−概念とし

て、脳を基盤とする物質的、物理過程をもとに一元論的な解

消を目指すものといってよい。本章は、当の「記号」と「記

号の処理・操作」それ自体を考察の対象とする。その記号の

処理・操作とは、一定の規則に則って行われる「計算」であ

る。日常の「考えること」に当たる。その基本の論理構造を、

伝統的なアリストテレス論理学から、現代の記号論理学、命

題論理学と述語論理学に則って吟味する。それは新に考える

機械(コンピュータ)の可能性を開くとともに、心を機械と

みる観点へと開かれる。この上で心身問題への新たな解決の

糸口を探る。

同 上 同 上


15

エピロ−グ

− 「認知行動科

学」;「認知論」と

「行動論」の統合と

新たな展開−

現代心理学の二大パラダイムの吟味を通して、私たちの最

大の関心事の一つである「心とは何か」、「行動とは何か」

に対する思索の後を追って現代の心理学のフロンティアの有

様を概観してきた。心理学の統一理論の確立をはじめそこに

は多くの重要な課題が解決を待っている状況である。最大の

論点の一つはデカルトを一つの原点とする「心身問題」にあ

る。それは「擬似問題」であろうか。心などの用語の「記述

レベル問題」であろうか。一方、物理自然諸科学は、「機械

論」に立って一貫した世界観を確立してきた。それは心をい

かに解くか、新たな段階を迎えている。「認知科学」がそれ

である。それは統一理論たりうるか、身近な話題を通じその

可能性を探り、本書のとりまとめを行う。

同 上 同 上-----