2005/01/19 8950121.doc 1
= 社会心理学特論(‘05)=(TV)
− 発達・臨床との接点を求めて −
〔 主 任 講 師: 大橋 英寿(放送大学副学長)〕
〔 主 任 講 師: 細江 達郎(岩手県立大学教授)〕
全体のねらい
社会心理学は、パーソナリティ・社会・文化の3視点を有機的に統合して人間生活を
理解しようとす
る学問分野である。この講義は三部から成る。第T部で社会心理学に固有の視点と基
本概念を概説する。
第U部ではライフサイクルにわたる社会化をめぐる多様なトピックをとりあげること
で発達心理学と
の接点を探る。本講義が臨床心理プログラムのための講義であることを考慮して、第
V部では社会心理
学と臨床心理学の接点を求めて地域のヘルスケア・システムに焦点をあてる。
回 テーマ 内 容
執筆担当
講師名
(所属・職名)
放送担当
講師名
(所属・職名)
第T部 社会心理学の視点
1
社会心理学−人間
科学の礎−
社会心理学は、パーソナリティ心理学・社会学・文化人類
学の接合するところに位置する境界科学、学際科学である。
それゆえに、活況をみせる一方で、この学問分野の定義、守
備範囲、研究法をめぐっては多種多様な立場が併存している。
この錯綜状況に整序をこころみ、マルチメソッドの必要性と、
人間科学としての方法論上の独自性を強調する。
大橋 英寿
(放送大学副
学長)
大橋 英寿
(放送大学副
学長)
2
社会心理学とパー
ソナリティ
パーソナリティ心理学は、「人間−状況論争」を通じ、内
的要因と状況要因の相互作用を把握しうる視点や研究手法に
関心が集まっている。こうした研究動向を紹介しつつ、「状
況」に関する系統的な研究の必要性とともに、人間行動の「コ
ヒーレント(統合的)」な理解、いいかえれば、歴史的・動
態的変化の把握に向けた、パーソナリティ心理学と社会心理
学研究の連帯の必要性について考察する。
堀毛 一也
(岩手大学教
授)
堀毛 一也
(岩手大学教
授)
3
集団過程の社会心
理学
人の主観的統一性と客観的影響性の同時的把握という社会
心理学の基本的アプローチのうち客観的影響性の側面を集団
過程から考察する。二者関係から多数者の組織的関係までの
集団的影響関係を整序し、安定した状況下にある「集団」の
もつ特徴を明らかにする。また、目標の共有、成員性、凝集
性、組織性、持続性などの特徴がもたらす諸問題(集団浅慮、
集団極化、服従)をとりあげる。
細江 達郎
(岩手県立大
学教授)
細江 達郎
(岩手県立大
学教授)
4
文化と人間の心身
の関わり
「文化」とは、概念的には、(1)物理・生態的環境(物
質文明)、(2)社会的環境(人と人との組織のされ方)(3)
内面的環境(人がその中に生きている意味世界)の三側面か
らなっているが、人々が生きている現実の文化環境は、それ
らがミックスしたものである。こうした文化環境が、人間の
心身の発達にどのように関与しているかを(1)胎児期の脳
の発達と妊娠中の母体の健康、(2)幼児期のメディア環境
と脳、(3)児童期・思春期における文化間移動に伴う問題
などを中心に講じる。
箕浦 康子
(お茶の水女
子大学客員教
授)
箕浦 康子
(お茶の水女
子大学客員教
授
2005/01/19 8950121.doc 2
回 テーマ 内 容
執筆担当
講師名
(所属・職名)
放送担当
講師名
(所属・職名)
第U部 社会心理学の展開 −社会化を中心に−
5
社会化過程−発達
と時代史の交差−
人が文化規範を学習して社会の一員となっていく社会化過
程は、パーソナリティ心理学、社会心理学、社会学、文化人
類学の共通テーマである。社会化は幼少年期の受動的過程に
とどまらず、ライフサイクル全体にわたる個性化の過程でも
あり、さらに既存の社会と文化を変容させる要件にもなりう
る。その実例をシャーマンの成巫過程を通して理解する。
大橋 英寿 大橋 英寿
6
職業的社会化と同
郷ネットワーク
近代の社会変動にともなう村落から都市への急激な人口移
動は伝統的な共同体の解体を一気に促したとされる。しかし、
沖縄の特定地域からの移動と定着の事例は、親族や同郷人に
よるネットワークの形成と職業的社会化の過程が一体となっ
て進行したことを示している。出身地域での重層的な繁がり
を活用しながら、それぞれの移動先の状況に適合しうる形を
あらたに編み出していった人びとの姿を考察する。
石井 宏典
(茨城大学助
教授)
石井 宏典
(茨城大学助
教授)
7
移民の生活ストラ
テジー
国境を越えて移動する「国際移動民」が地球的規模で増加
している。日本でも近年、外国人労働者が増え、1990 年の入
管法改正以降はブラジル、ペルー、アルゼンチン、ボリビア
などの日系人の出稼ぎ者が急増し、一時的出稼ぎから定住志
向まで生活形態が多様化してきている。南米日系人の生活ス
トラテジー、日本体験に伴う二世・三世のエスニック・アイ
デンティティの変容を事例をもとに解説する。
大橋 英寿 大橋 英寿
8
組織に生きる個人
−企業の人的資源
管理と従業員の組
織内キャリア−
現代人にとって組織との関わりなしに生活することはむず
かしい。なかでも企業はそのメンバーに「よい仕事」を提供
し、彼/彼女の自己実現に資する一方、「会社人間」や過労
死など病理的な影響をもたらす。企業に参入した人々は、組
織のなかでどのようにキャリアを展開し、メンバーとして必
要な能力や態度を身につけるのか。この問題を日本企業の人
的資源管理の特質を踏まえながら検討する。
小林 裕
(東北学院大
学教授)
小林 裕
(東北学院大
学教授)
9
非行・犯罪の理解 犯罪原因論は、行為者の内的過程を重視する傾向にあるが、
犯行・非行の生起は、実際には、行為者・被害者・法裁定者
との動的関係で展開する社会心理学的現象である。したがっ
て、その研究も社会心理学的アプローチが最適である。さら
に犯罪研究も犯非行の態度形成場面、犯罪発生場面、矯正場
面にわたり広範囲に研究される必要がある。犯罪の心理学的
研究の問題点をたどりながら、犯罪・非行の理解に必要な概
念や枠組みについて解説し、犯罪研究の将来像についても考
察する。
細江 達郎 細江 達郎
10
遊びとしての逸脱
−暴走族のケース
−
逸脱行動の中には、従来の犯罪・非行理論に典型的な、反
社会的価値への同調や不利な社会環境に置かれたことによる
社会的・心理的ストレスのみを強調する理論では十分に説明
できないものが含まれている。そのような逸脱行動の典型例
として暴走族活動をとりあげ、青年期における一時的な逸脱
の背景と合法的生活への回帰のプロセスについて解説する。
佐藤 郁哉
(一橋大学大
学院教授)
佐藤 郁哉
(一橋大学大
学院教授)
2005/01/19 8950121.doc 3
回 テーマ 内 容
執筆担当
講師名
(所属・職名)
放送担当
講師名
(所属・職名)
第V部 社会心理学と臨床心理学の接点
11
ヘルスケア・システ
ムと住民の対処行
動
心身の不調に気づいたからといって、病院へすぐ出向くと
はかぎらない。現代医療にのみ頼るわけでもない。病者と家
族のとる対処行動を理解するには、<疾病>と<病い>、<
治療>と<癒し>の複眼的視点とともに、民間セクター・専
門職セクター・民俗セクターがオーバーラップする地域のヘ
ルスケア・システム全体を視野にいれる必要性を、フィール
ドワークの知見にもつづいて検証する。
大橋 英寿 大橋 英寿
12
祭りとヘルスケア
−高千穂夜神楽−
祭りは、地域の団結といった集団的意義にとどまらないで、
個人にも重要な意義をもたらしているのではないか。こうし
た観点から、祭りをヘルスケア・システムにおける民俗セク
ターの−要素として位置づけてみたい。祭りを媒介として、
民間セクターと民俗セクターがオーバーラップするヘルスケ
ア・システムにおいてどのようなヘルスケア活動が行われ、
どのようなヘルスケア効果を生み出されているのか、伝統的
祭りである高千穂夜神楽を例に検討する。
福島 明子
(作新学院大
学助教授)
福島 明子
(作新学院大
学助教授)
13
シャーマニズムに
みる癒し
人類最古の治療者と目されるシャーマンが現在も世界各地
で活躍している。人々のシャーマン的職能者への依存の実態
は、医療従事者には見えにくいが、クライエントがとる対処
行動の見過ごせない一面である。土着コスモロジーを背景に
した信仰治療は自然界や宇宙との調和にもつづくホーリステ
ィクな治療法として注目される。津軽のシャーマン「カミサ
マ」の救いと沖縄のシャーマン「ユタ」の治療儀礼を通して
その一端を紹介する。
大橋 英寿 大橋 英寿
14
被害者・被災者の援
助
犯罪や非行などを理解するには、加害者と被害者との関係、
さらに周囲の第三者との関係が欠かせない。社会心理学的な
観点が必要な理由はここにある。近年大きな問題になってい
る被害者支援は、この社会心理学的な視点に立つことが必要
である。又被害者への支援は被害者に直接接触する人々にと
どまらず地域社会全体の変容が期待される。社会心理学にお
けるコミュニティのアプローチを考え、あわせて災害等の被
災者の援助及びその研究のあり方についてもふれる。
細江 達郎 細江 達郎
15
臨床社会心理学に
むけて
臨床的問題の発生過程と解決は個人の生きてきた社会文化
的背景を抜きには理解できないであろう。カウンセラーとク
ライエントの対話である「心理臨床の場」そのものが心理−
社会的リアリティで構成されていく。とすれば、臨床心理学
者にとって社会心理学の知識は不可欠であろう。両分野の接
点と相互交流の在り方を模索する。
大橋 英寿 大橋 英寿