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2004/11/05 8910200.doc 1
= 文化人類学研究(‘05)=(TV)
〜先住民の世界〜
〔 主 任 講 師: 本多 俊和(スチュアート ヘンリ)(放送大学教授)〕
〔 主 任 講 師: 大村 敬一 (大阪大学大学院助教授)〕
〔 主 任 講 師: 葛野 浩昭 (聖心女子大学助教授)〕
全体のねらい
今日、グローバリゼーションによる世界の画一化が進む一方、世界各地の民族やエス
ニック集団にみる文化
的な多様性への関心が高まっている。こうした文化の多様性を正しく理解することに
よって、自民族至上主
義(自民族中心主義)を克服し、真の意味での異文化理解にもとづいた共生的な国際
関係の構築に貢献する
ことが、文化人類学の重要な使命の一つである。この授業では、先住民に焦点を絞っ
てその歴史と現状を検
討し、グローバリゼーションと文化的多様性の相克を共通のテーマとし、近代国民国
家と先住民、国際法・
憲法における先住民、言語政策と民族語保存運動、マス・メディアと先住民、先住民
のアート、伝統的な知
識と近代科学、「伝統」と「近代化」などを主題とした講義を通して、それぞれの分
野の第一線で活躍して
いる講師のフィールドワークを加味した授業で、文化多様性の理論と問題点を浮き彫
りにする。
回 テーマ 内 容
執筆担当
講師名
(所属・職名)
放送担当
講師名
(所属・職名)
1
先住民とは何か 先住民という概念をさまざまな視点から検討する。先住
民族と少数民族、エスニック集団の違い、16 世紀にヨ
ーロッパの歴史に登場した「野生人」としての先住民、
「野蛮」視されてきた先住民像の修正などの問題を包括
的にとり上げ、欧米を中心とした世界観を文化の多様性
の視点からとらえなおす。
本多 俊和
(スチュア
ート ヘン
リ)(放送大
学教授)
本多 俊和
(スチュア
ート ヘン
リ)(放送大
学教授)
2
文化多様性への
扉:人類学と先住
民研究
グローバリゼーションが進行し、様々な紛争が頻発
する今日の世界で、人類学は文化相対主義を支柱に
文化多様性の尊重を掲げ、異なる価値観に対する寛
容の精神を育んできた。しかし、こうした文化相対
主義には、価値観が異なる文化的他者と自己の間に
壁を築いてしまう本質主義に陥るおそれもある。こ
の授業では、こうした人類学の理論的問題が先住民
研究の場で先鋭化することを示し、理念的に文化多
様性を議論するだけでなく、フィールドワークとい
う具体的な現実の場に密着して文化多様性を考える
ことの重要性を示す。
大村 敬一
(大阪大学
大学院助教
授)
大村 敬一
(大阪大学
大学院助教
授)
3
人類学的実践の
共同へ:フィール
ドワークと先住
民
本質主義批判、オリエンタリズム批判の向けられる
人類学であるが、そのフィールドワークは、あくま
でも個別具体的な人々と私との対面的な関係とその
変化に基礎を置くものである。そして今日、先住民
の中には、それぞれ個別の想いや立場で自分たちの
ことを調べ、学び、教え、表現するフィールドワー
ク的営みを重ねている人々が少なくない。この授業
では、人類学者のフィールドワークと先住民自身の
フィールドワーク的営為とを重ね共同して見つめる
ことを通して、人類学的実践の持つ可能性について
考える。
葛野 浩昭
(聖心女子
大学助教授)
葛野 浩昭
(聖心女子
大学助教授)
2004/11/05 8910200.doc 2
回 テーマ 内 容
執筆担当
講師名
(所属・職名)
放送担当
講師名
(所属・職名)
4
民族文化として
の採集狩猟活
動:イヌイトの事
例から
採集狩猟を基盤とする生業活動は、農耕の対極に位置づ
けられることが多いが、極北地帯のイヌイトの生業活動
を事例に、こうした二項対立的な解釈を吟味することを
通して、現代における「伝統」と「近代」について考え
る。
本多 俊和
(スチュア
ート ヘン
リ)
本多 俊和
(スチュア
ート ヘン
リ)
5
民族文化として
のトナカイ飼
育:サーミの事
例から
1970 年代、或る女性は「体が続く限り遊牧を続けた
い」と語った。90 年代、EU統合を前にして将来へ
の不安を抱えながらも、或る男性は中学生の息子を
連れてトナカイの追い込みに出かけた。2003 年、息
子の生まれた一人の青年は「今はいろんな選択肢が
あるけど、息子にもトナカイ飼育をして欲しい」と
語る。この授業では3人の映像を通してサーミ人の
トナカイ飼育を紹介すると同時に、それがサーミ民
族文化の存続・発展の要であることについても考え
る。
葛野 浩昭 葛野 浩昭
6
野生の科学と近
代科学:先住民
の知識
世界の先住民は、狩猟・漁労・採集や農耕、牧畜などの
生業活動を通して、環境を持続的に利用するための知識
体系を築き上げてきた。この講義では、カナダ極北圏の
イヌイトを事例に、伝統的な知識の可能性を問いなが
ら、伝統的な生態学的知識が、グローバル化の原動力と
なってきた近代科学に対して提起する問題を考察する。
大村 敬一 大村 敬一
7
ロシア極東地域
における先住民
企業の生き残り
戦略
ソ連崩壊と社会主義計画経済の破綻、資本主義化を目指
したその後のロシア経済の混乱はシベリアや極東地域
といった辺境地域にすむ先住民の経済にも大きな打撃
を与えた。ここでは沿海地方のウデヘという少数民族の
狩猟企業を例にとりながら、彼らの生き残り戦略を分析
する。
佐々木史郎
(国立民族
学博物館教
授)
佐々木史郎
(国立民族
学博物館教
授)
8
先住民社会の変
化と女性
ヨーロッパの入植者との接触によっておおきな社会変
化を経験したオーストラリアの先住民社会では、社会の
諸側面で変化への対応が見られる。見過ごされがちな女
性たちも、この変化のなかにあり、柔軟な対応によって
社会に力を与えることにもなっている。ジェンダーの視
点から先住民社会の変化を考える。
窪田 幸子
(広島大学
助教授)
窪田 幸子
(広島大学
助教授)
9
アフリカの焼畑
と混作:在来農法
の語られ方
アフリカの熱帯雨林地帯では、狩猟採集、混作・焼畑農
業など、自然との絶え間ない相互作用の中で、自然が生
み出した多様性を生かす技法が発達している。国家や企
業が森林を保護・活用すべき経済資源であると見なす中
で、地域住民にとっての森との関係の全体像を考える。
小松かおり
(静岡大学
助教授)
小松かおり
(静岡大学
助教授)
2004/11/05 8910200.doc 3
回 テーマ 内 容
執筆担当
講師名
(所属・職名)
放送担当
講師名
(所属・職名)
10
メディアと先住
民:表象する側と
される側
政府によるメディア政策。活字メディア、メディアとし
ての博物館、「民族」音楽などの媒体を通して、ドミナ
ント社会のメディアに表象される先住民像とメディア
を利用する先住民の自己表象を考察する。
本多 俊和
(スチュア
ート ヘン
リ)
本多 俊和
(スチュア
ート ヘン
リ)
11
民族文化から芸
術活動へ:文化
の創造的動態
先住民の間で高まりを見せている美術・文芸・音楽
活動は、時に生活を支え、時にエスニック・アイデ
ンティティを支えるための、民族文化資源の利用で
あり、民族文化の復興運動でもある。そして、これ
ら芸術活動は、先住民からのfirst-voice として、
また、グローバリゼーションと文化多様性の潮流と
を媒介する声として、世界へ向けて発せられ、響き
渡っている。この授業ではイヌイトとサーミの芸術
活動を取り上げる。
葛野 浩昭
大村 敬一
葛野 浩昭
大村 敬一
12
先住民運動:過
去、現在、未来
第二次世界大戦後におきた先住民運動の軌跡をたどる。
戦後のアメリカ合衆国にはじまった公民権運動に出発
点をもつ先住民運動が世界的に拡がってきた様子を描
く。
本多俊和
(スチュア
ート ヘン
リ)
本多俊和
(スチュア
ート ヘン
リ)
13
先住民族と憲法 先住民族の権利を国内において実現するためには憲法
との適合性を考えなくてはならない。民族という集団に
人権主体性が認められるか、特別な権利の保障は平等原
則に反しないか、憲法の明文にないが民族にとって重要
な権利をどのように保障するかなど問題は少なくない。
本講では諸外国の事例も参照しつつ検討を行う。
常本 照樹
(北海道大
学大学院教
授)
常本 照樹
(北海道大
学大学院教
授)
14
アイヌ語の現在
と未来
アイヌ語を今継承しようとしている人々の動きを、アイ
ヌ語教室やアイヌ語弁論大会などで自主的に活動して
いるアイヌたちに焦点を当てて紹介し、国や道の政策と
の関係を見ながら、日本という国においてそういった運
動の持つ意味を考える。
中川 裕
(千葉大学
教授)
中川 裕
(千葉大学
教授)
15
座談会
共同の学問、共
生の世界へ
以上の授業で提起された課題や問題意識をとり上げな
がら、先住民の視点から文化的な多様性に関する議論と
総括を行なう。
本多 俊和
(スチュア
ート ヘン
リ)
大村 敬一
葛野 浩昭
本多 俊和
(スチュア
ート ヘン
リ)
大村 敬一
葛野 浩昭