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2004/11/08
1891219.doc 1
=動物の行動と生態(‘04)=(TV)
〔主任講師: 長谷川眞理子(早稲田大学教授)〕
全体のねらい
本講義では、動物が見せるさまざまな行動が、その動物の暮らす生態環境との関係においてどのようにして進化して
きたかを探る、行動生態学、動物行動学のおもな研究成果を紹介し、動物の行動の機能とその進化について考察する。
動物の生理学的、生化学的な仕組みの細部ではなく、個体としての動物が環境との関係を通してどのように行動するか、
マクロな生物学のおもしろさを伝えたい。
回テーマ内容
執筆担当
講師名
(所属・職名)
放送担当
講師名
(所属・職名)
1動物の行動と生態:研究の目的と歴史:
動物は、採食、捕食の回避、配偶、子育てなど、さまざま
な行動を行なって生きている。動物がある行動をとるのは「な
ぜ」なのだろうか? この疑問には、4つの答え方、アプロ
ーチの仕方が存在する。初回は、その4つの「なぜ」の問い
方を説明するとともに、動物行動研究の歴史をたどる。
長谷川眞理子
(早稲田大学
教授)
長谷川眞理子
(早稲田大学
教授)
2 自然淘汰と適応:理論的枠組み:
行動の研究で中心となる概念は適応である。生物がその生
態環境との関係において、生存と繁殖に役立つ形質を備えて
いることを適応と呼ぶ。適応が生じるプロセスを説明するの
が自然淘汰の理論である。動物行動の進化を分析する重要な
理論的枠組みである自然淘汰について、実例をあげて説明す
る。
同上同上
3 行動と進化:
行動は、生物のなんらかの欲求を満たすという点で利益を
もたらすとともに、なんらかのコストも伴うものである。行
動生態学では、そのような行動のコストと利益を多角的に分
析する。ある一つの行動パターンが最適な解をもたらす場合、
行動は自然淘汰によって最適化される。その過程を、おもに
採食行動を例にあげて説明する。
同上同上
4 社会行動とゲーム理論:
前回は、最適化について説明したが、行動によっては、最
適な行動が一つに決まらない場合も生じる。とくに、互いに
相手の出方によってこちらが何をしたらよいかが変化するよ
うな社会行動においてはそうであることが多く、そのような
場合にどのような行動が進化するかは、ゲーム理論を用いて
分析されている。その過程を、主に闘争行動を例にあげて説
明する。
同上同上
5 血縁淘汰と包括適応度:
第2
回目の講義で、自然淘汰は個体の最適度を最大化する
ように働くと述べた。それでは、いわゆる利己的行動のみが
進化し、利他的行動は進化しえないのだろうか?そんなこと
はない。その一つの過程が、血縁淘汰と呼ばれるものである。
それは、自分と同じ遺伝子を共有する個体に対しては、その
血縁度に応じて利他的な行動が進化することを説明する理論
である。
同上同上
2004/11/08
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回テーマ内容
執筆担当
講師名
(所属・職名)
放送担当
講師名
(所属・職名)
6 互恵的利他行動と相互扶助:
前回は、血縁者間に生じる利他行動の進化を扱った。では、
非血縁者間では、利他行動は進化するのだろうか?それには、
互恵的利他行動と相互扶助の2つのシナリオが考えられる。
それぞれの例を紹介するとともに、非血縁者間の利他行動の
進化研究のこれまでの成果を振り返る。
長谷川眞理子長谷川眞理子
7 親による子の世話:
親による子の世話の形態は、まったく世話をしないもの、
両親そろって世話するもの、雌親だけが世話するもの、雄親
だけが世話するもの、両親以外の個体も参加して世話するも
のと、実にさまざまである。昆虫から哺乳類まで、さまざま
な親の世話の形態を紹介するとともに、なぜこのような変異
が存在するのか、理論的な分析を試みる。
同上同上
8 性淘汰と配偶の機会をめぐる競争:
雄と雌はとは、さまざまな形質において異なることが多い。
このような性差が存在する理由は、自然淘汰の理論では十分
に説明できない。それは、たとえ同じ種に属していても、雄
と雌では、繁殖の機会をめぐる競争のあり方が異なるために
生じる。それを説明するのが性淘汰の理論である。さまざま
な動物における性差と配偶をめぐる競争の関係を紹介する。
同上同上
9 配偶者選択:
多くの場合、配偶者の獲得をめぐる同性間の競争は、雌ど
うしよりも雄どうしにおいて強いため、雌は配偶者選択をす
ることができる。その結果、雄の美しい飾り羽根やさえずり
声などが進化したと考えられる。では、雌は、なにを目安に
して配偶者選択をしているのだろうか?さまざまな動物にお
ける配偶者選択の実例を紹介するとともに、配偶者の進化を
分析する理論を説明する。
同上同上
10 配偶者防衛と雌雄の対立:
性淘汰はこれまで、配偶者の獲得をめぐる同性間の競争と、
配偶者選択をめぐる異性間のやりとりとの2
本柱で論じられ
てきた。しかし、雄にとって有利な行動と雌にとって有利な
行動とが一致するとは限らず、雌雄の対立がさまざまな場面
で見られる。雄が、自分の配偶相手として獲得した雌を他の
雄にとられないように雌の行動を制限する配偶者防衛も、そ
のような現れの一つである。
同上同上
11 鳥のさえずりの進化をめぐって
美しい鳥のさえずりは、配偶者選択の結果として進化して
きた。今回は、ジュウシマツのさえずりをめぐって、さえず
りの生成をつかさどっている脳の働きやさえずりの学習のメ
カニズム、さえずりと配偶者選択、さえずりの系統進化と、
さえずりについて「4つのなぜ」のすべての面を取り上げて
みたい。
同上
長谷川眞理子
岡ノ谷一夫
(千葉大学助
教授)
12 配偶システム
一夫一妻、一夫多妻など、配偶システムを表す呼び名はた
くさんある。しかし、動物の配偶システムは、その種に固有
のものとして備わっているのではなく、雄の配偶戦略と雌の
配偶戦略の妥協点として生じると考える方が真実に近い。ど
んなときにどのような配偶システムが生じるのか、いくつか
の動物群について解説するとともに、配偶システムが、生態
環境の変化に応じてどのように変化するかも検討する。
同上長谷川眞理子
2004/11/08
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回テーマ内容
執筆担当
講師名
(所属・職名)
放送担当
講師名
(所属・職名)
13
鳥類と哺乳類の配
偶システムをめぐ
って
前回は、配偶システムの進化について述べたが、哺乳類と
鳥類とでは、生理学的な特徴の違いから、配偶システムに関
して、いくつかの大きな違いが見られる。それが何であるか、
鳥類に固有の条件、哺乳類に固有の条件について、そして両
者に共通する点について、論じてみたい。
長谷川眞理子
長谷川眞理子
上田恵介
(立教大学教
授)
14 共進化と進化的軍
拡競争
動物は、他種の動物や植物とさまざまな関係を持ちながら
暮らしている。他の種は、捕食者であったり、餌であったり、
競争者であったりする。それらに対して、ある種が行動を進
化させると、相手の種は、それに応じて自らの適応度を上げ
るように、自分たちも行動や形態を変化させる。こうして、
密接な関係を持っている種どうしは、互いに影響を及ぼしあ
いながら共進化していく。その様子を解説する。
同上長谷川眞理子
15 保全生態学に向け
て
これまで、動物の行動と生態の関係を、さまざまな点から
概観してきた。しかし、近年、地球環境の破壊によって、多
くの生物が絶滅の危機に瀕しており、それらの保全のための
緊急策が講じられている。行動生態学は、生物の保全の問題
にどのように貢献できるのだろうか?これまでの成果とこれ
からの展望を考えてみよう。
同上同上