HOME

2005/01/18 8920036.doc 科目名 複雑システム科学(02) 1/3

=複雑システム科学(‘02)=(TV)

〔主任講師: 杉本 大一郎(放送大学教授)〕

全体のねらい

現実の世界には多くの要素からなる複雑なシステムが多い。しかもそれらの要素は強

く相互作用していて、非線形システ

ムになっている。またシステムは孤立した存在ではなく、外界とエネルギーなどのや

りとりのある開放系になっており、そ

れをとおして非平衡状態が維持されている。他方では、システムからいろいろな要素

を剥ぎ取って単純な力学系に還元して

しまっても、なおかつそこに複雑性が残るという本質的複雑性が埋め込まれているこ

とが多い。この科目ではそのような本

質的複雑性から始めて、それが自発的形態形成にどのようにつながっており、さらに

自然界においてどのように発現してい

るかを論じる。自然界にある複雑なシステムを論じるときに、その非線形相互作用が

本質的役割を果たしている様子とメカ

ニズムを明らかにする。このような視点は、原因と結果の関係が単純なデカルト的論

理を超えている自然現象や社会現象を

扱わなければならないという、21 世紀の要請に対処するために必要な基礎の一つに

なると考える。

回 テーマ 内 容

執筆担当

講師名

(所属・職名)

放送担当

講師名

(所属・職名)


1 複雑システムの諸

様相

いろいろな要素を剥いで行って単純なシステムに還元され

ても本質的に複雑性が残るもの、多数の要素が絡み合ってい

るために複雑なもの、デカルト的論理と方法の限界、線形に

おける原因と結果の関係、非線形における原因と結果の連鎖、

非線形における複雑さ、要素の論理(性質)とシステムの全

体としてのグローバルな論理(機能)などについて論じ、こ

の科目のイントロダクションとする。

杉本 大一郎

(放送大学教

授)

杉本 大一郎

(放送大学教

授)


2

複雑系としての生

命科学 (T)

〜構造的にとらえ

る生命の論理〜

複雑系において、部分と全体の相補的な関係をとらえる立場

(complex system)と、各部分のこみいった組み合わせに着目す

る立場 (complicated system) の違いについてのべる。

ついで、前者の立場の研究方法として、構成的アプローチと、

大自由度の力学系を紹介する。

金子 邦彦

(東京大学教

授)

金子 邦彦

(東京大学教

授)


3

複雑系としての生

命科学 (U)

〜発生への力学系

アプローチ〜

内部ダイナミクスを持ち増殖する要素の相互作用系とし

て、細胞の抽象的モデルを考える。これをもとにして多様性、

分化、集団としての安定性、それをもたらす分化規則の生成

を調べる。さらに生命現象における安定性と不可逆性を議論

する。

同 上 同 上


4

複雑系としての生

命科学 (V)

〜ダイナミクスの

シンボル化〜

前回に見出された、ダイナミックな過程から分化されたタイ

プへの形成が、どのように固定され、情報として伝わってい

くかを、進化の問題を例にとって示す。最後にこのような考

え方が社会現象に適用できるのかを議論してみる。

同 上 同 上


5 計算機による自然

の模倣 (T)

物理学など従来の自然科学は、自然界の複雑な現象を出来

るだけ単純化することによっていくつかの基本法則を見出し

てきた。計算機の発達により、単純な基本法則から自然界の

複雑な現象を再現することが可能になりつつある。

小柳 義夫

(東京大学教

授)

小柳 義夫

(東京大学教

授)


6 計算機による自然

の模倣 (U)

並列処理による計算速度の飛躍的向上は、実験できない対

象や未知の物質などについての予言を可能にした。これによ

り量子科学、天体物理などの科学研究だけでなく、工業生産、

環境問題、遺伝子工学などの実用問題にも計算機が活躍して

いる。

同 上 同 上

2005/01/18 8920036.doc 科目名 複雑システム科学(02) 2/3

回 テーマ 内 容

執筆担当

講師名

(所属・職名)

放送担当

講師名

(所属・職名)


7 章物性物理と「複雑

系」

・ はじめに

・ 相転移と臨界点(対称性の破れとランダウの現象論;イジ

ング模型と二元合金の模型;平均場近似;液相気相転移と

臨界点)

・ 量子系の相転移(ミクロな系と量子力学;量子多体系;量

子融解転移)

今田 正俊

(東京大学教

授)

今田 正俊

(東京大学教

授)


8 空間構造と時間構

造の発生

・ 空間構造(欠陥と秩序の破壊;複雑な周期性を持つ秩序)

・ 非平衡ダイナミックス(非平衡状態からの緩和;スピノー

ダル分解;核形成)

・ 自己組織化

同 上 同 上


9 強相関量子系

・ 電子系研究の歴史

・ 多電子現象の多様性と複雑性

・ 強い相関と整合効果

・ 階層構造の出現

・ 量子整合相転移と量子的な創発

同 上 同 上


10 非平衡開放系とそ

の維持

自然界にある非線形・非平衡・開放系には、非線形振動を

しながら持続している状態(例えば心臓)と、定常的に持続

している状態(例えば生命体)がある。そのような系は、平

衡に近づこうとして起こる不可逆過程によって生成されるエ

ントロピーを、外部の空間に捨てることによって定常状態を

持続することができる。

杉本大一郎 杉本大一郎


11 非平衡構造の自発

的形成

平衡状態から有限量だけ離れた非平衡系は、それを包むよ

り大きい非平衡の中に、入れ子構造になって存在する。例え

ば生命界という非平衡は地球の非平衡の中に、地球の非平衡

は太陽−地球系という非平衡の中で初めて存続し得る。しか

し大きい非平衡形の中にある部分系がいつでも非平衡であり

うるわけではない。非平衡構造が自発的に形成されるには、

系の内部での相互作用が重要であることを、定量的な例で示

す。

同 上 同 上


12 自然界にある複雑

システム

自然界には本質的複雑性、それを要素としてもつ複雑なシ

ステム、非線形的に込み入っているシステムなど、多様な現

象がある。そのようなシステムの全体としての振舞を規定し

ている縛りは何であろうか。複雑流体、気象と気候、地球内

部構造の進化、プラズマの非線形現象を研究している4 つの

研究室を訪れ、この問題を考える。

同 上 同 上


13

「構造と機能」(I)

〜現代的生命機械

論〜

構造がわかれば機能がわかるという現代生物学のパラダイ

ムはDNA の2重ラセン構造と蛋白質の立体構造の発見から

生まれた。このパラダイムにのった最近の研究が生命の理解

をどう進めたかを紹介する。特に機械文明にアナロジーをと

る階層構造のトップダウン型アプローチを試みる。

永山 國昭

(自然科学研

究機構生理学

研究所教授)

永山 國昭

(自然科学研

究機構生理学

研究所教授)

2005/01/18 8920036.doc 科目名 複雑システム科学(02) 3/3

回 テーマ 内 容

執筆担当

講師名

(所属・職名)

放送担当

講師名

(所属・職名)


14

「構造と機能」(II)

〜蛋白質特異構造

の起源〜

生命の第2の神秘、蛋白質の特異構造は生命科学の中心的

テーマの1つである。ヒトゲノム解析後の中心課題として、

全蛋白質構造決定の巨大プロジェクトが動き始めた。しかし

個別的な蛋白質の背後に普遍的な蛋白質構造言語があるはず

だ。生命境界物質である蛋白質の構造特異性の起源を物理的

に説明する最新理論を紹介する。

永山 國昭 永山 國昭


15 生命=自己複製系

〜偶然か必然か〜

複雑システム研究の方法について、従来のアプローチとど

こが同じでどこがちがうのかを整理する。その上で超複雑系

である生命に関し、複雑システム的アプローチの有効性を吟

味する。特に生命の誕生について、それが、非生物的物質過

程の必然的帰結なのか、偶然の産物なのかを考察する。そし

て多くの2元論的対立の構図を乗り越える複雑システム生成

の試論を展開する。

同 上 同 上----------