HOME 2004/11/05 1540300.doc 1 = 情報技術と社会(‘05)=( TV 〔主任講師: 大岩元(慶應義塾大学教授) 〕 〔主任講師: 辰己丈夫(東京農工大学助教授) 全体のねらい 情報技術(Information Technology)は、21 世紀の社会を築く基盤となったが、その本質について必ず しも理解されているとは言いがたい。コンピュータと情報ネットワークを支えるデジタル技術につい て、ものごとの本質を見極める時に役立つ本質的な知識を選び出して、その理解と具体的な応用例を示 す。さらに、これからの社会がどのように変って行くか予測して、それに対処するには人々が何をしな ければならないかについて考察する。 回テーマ内容 執筆担当 講師名 (所属・職名) 放送担当 講師名 ( 所属・職 名)
情報技術と21 世 紀の社会: 1940 年代に姿を現わしたコンピュータは、50 年代に商用化さ れ、70 年代以後は、その基盤となる半導体産業の劇的な発展をう ながした。その結果、コンピュータの費用対効果は著しく増大し てインターネットを生み出し、21 世紀の社会の根底を支えるまで になった。その中心を担うコンピュータには、パソコンのように 目に見える形のものと、ビデオやカメラ、自動車などに内蔵され ている目に見えない形のものがある。 大岩元 (慶應義塾大 学教授) 辰己丈夫 (東京農工大 学助教授) 大岩元 (慶應義塾大 学教授) 辰己丈夫 (東京農工大 学助教授)
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見える情報技術世界最初のコンビュータの考えられているENIAC は、1946 年 に米国のペンシルバニア大学で完成し、砲弾の軌道計算に使われ た。どんな計算をするかを決めるプログラムを記述するのに、配 線盤が使われたために、計算は砲弾の飛行より早かったが、配線 に1 週間もかかった所が問題であった。これを解決して、高速記 憶装置にプログラムを書きこむようにしたのが、英国のケンブリ ッジ大学で開発されたEDSAC である。ハードウェアとしてのコ ンビュータは、大型計算機からミニコン、ワークステーション、 パソコンと大きさが小さくなると一方で、その能力は増大し、巨 大なプログラムを必要とするようになった。プログラムを書くこ とは、予想以上に困難であり、現在の巨大なソフトウェア産業を 生むことになった。 大岩元 富樫雅文 (群馬大学非 常勤講師) 大岩元
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見えない情報技 術: コンピュータの開発当初は、人間が必要なデータを集めてコン ピュータに入力し、さらに、コンピュータによる計算出力に従っ て機械を操作したり、命令を出していた。その後、自動的にデー タを入力・収集する機器や、他の機器を制御する機器が開発され ると、さまざまな機械・システムの制御が、人間の手を介さずに コンピュータで行なわれるようになってきた。例えば、小口の荷 物に付けられたバーコードリーダは目の代わりをし、読み込まれ たデータを入力としてコンピュータで計算された結果を元にベル トコンベアが制御され、荷物は、方向別にトラックやコンテナに 収納される。このようなコンピュータを用いたシステムの導入が 進んだことで、物流システムが変わり、さらに、工場立地や産業 構造にまで影響が及んでいる。ここでは、さまざまな「見えない IT」の仕組みを明らかにしながら、情報技術が社会に与えた影 響について議論する。 辰己丈夫辰己丈夫 2004/11/05 1540300.doc 2 回テーマ内容 執筆担当 講師名 (所属・職名) 放送担当 講師名 ( 所属・職 名)
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コンピュータと 電卓は何が違う のか: 電卓はどのような仕組で計算を行なっているかと示す。算数で は乗除算が加減算より優先されて計算されるように教えられる が、普通の電卓ではなぜそのように計算されないかを説明する。 世界最初の電卓であるHP 社の電卓を紹介し、括弧を使わずに複 雑な計算が行なえるかを示し、日本語の語順との関連性を示す。 コンピュータが計算する仕組みは電卓と同じであることを説明 し、電卓では使用者の頭の中にある計算順序に従って計算が進ん で行くのに対して、コンピュータの場合には計算順序をあらかじ めプログラムとしてメモリに書きこんでおくことによって、超高 速に計算が行なわれる。コンピュータによる情報処理は、本質的 に電卓の計算と同じである。 大岩元 大岩元
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デジタル技術と アナログ信号: デジタル技術はアナログ信号を用いて実現される。デジタル技 術の基礎となる2 進法の原理について説明したあと、アナログ情 報をデジタル信号でどのように表現するのか、デジタル信号をア ナログ信号にもどした時の精度の問題を雑音の存在と関連させて 議論する。コンピュータへの性能要求に答えて半導体技術が発展 し、これに支えられて、情報技術も発展をとげてきた。こうして 発展したデジタル技術はコンピュータにとどまらず、CD DVD のような民生機器にも応用され、応用の拡大にともなって使える ほとんど全ての場面で使われるようになってきた。なぜデジタル 技術がアナログ技術に比べて有利なのか、デジタル化でどんな問 題が生じるかを論じる。 大岩元 富樫雅文 大岩元
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人間と機械の情 報処理(1): その大きな脳によって高度な情報処理能力を有するようになっ た人間と、小さくて高速な電子的機構によって情報を処理する機 械としてのコンピュータは、さまざまな面から共通点や異なると ころを見ることができる。情報処理システムとしての人間という 見方と記憶し判断するものとしてのコンビュータを考えることに よって、生活と社会のなかにコンピュータをどのように組み込ん でいったらよいのかについて議論する。そのために、情報の入力 としての感覚器官のはたらきとコンピュータの入力装置、脳のは たらきとコンピュータの計算処理、また、情報出力としての運動 とコンピュータの出力装置などを対比させながら、広い意味での 情報処理がどのように行なわれていくのかを見る。また、人間が 身体の延長として用いてきた道具と、脳の延長線上に位置付けら れるコンピュータではその作りや使いかたにおのずから異なると ころが出てくる。人間を中心に考えたとき、道具−機械−コンピ ュータという発達の流れのなかでこれらを使うための作法がどの ように変化していくのかについて考察する。 大岩元 (慶應義塾大 学教授) 富樫雅文 (群馬大学非 常勤講師) 大岩元 (慶應義塾大 学教授)
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人間と機械の情 報処理(2): 生物そして動物としての人間は「もの」によって構成された世 界のなかで生きており、「もの」の知覚や操作には長けている。 一方、情報は「もの」とは異質な存在であって、体を使って直接 に見たり触れたりすることができないために、コンピュータの中 で行なわれる情報処理を実感することが困難である。コンピュー タ本体に接続されるさまざまな周辺装置やソフトウェアの技術 が、この情報と「もの」のあいだの距離をつめて人間による情報 の操作を本来得意だった「もの」の操作に近づけるるために発達 してきた。コンピュータにおける「ヒューマンインターフェース (Human Inter face)」の知識と技術によって、 情報をどのようにして「もの」に見立て、また、情報の操作をど のようにして「もの」の操作に置き換えていくのかについて見て いく。このことによってあらためて情報で構成される世界という ものについて考えてみる。 大岩元 富樫雅文 大岩元 2004/11/05 1540300.doc 3 回テーマ内容 執筆担当 講師名 (所属・職名) 放送担当 講師名 ( 所属・職 名)
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情報ネットワー ク: ドアを直接ノックする、糸電話をつかうというアナログ方式の 通信と、送り手と受け手が0 1 の違いをあらかじめ約束して情 報を符号化して通信を行なうデジタル方式の通信の比較をしなが ら、通信技術の基礎について議論を行なう。次に、バス型と呼ば れるネットワーク通信の仕組みについて議論を行なう。そして、 インターネット技術の基礎であるパケット通信、ポート番号、 TCPUDP、経路制御、名前空間について取り上げ、それらの応 用である電子メール、WWWIP 電話、ビデオチャットなどにつ いて紹介をし、通信プロトコルの重要性について議論を行なう。 辰己丈夫辰己丈夫
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記号論から見た 情報概念: 情報技術が社会生活に与える影響として文化や生活様式の多様 化が指摘される。特にコンピュータネットワークの普及による情 報源の多数化やコミュニケーション機会の増大といった要因が、 高度経済成長が達成された後の社会において、文化・生活様式の 多様化の流れをさらに加速する力として作用している。このよう な文化的・社会的状況を生きるにあたっては、「情報の価値」の 問題に対する敏感さが要求される。すなわち文化・生活様式が多 様化した社会とは、他者の価値観や感受性のあり方が見えにくい 社会である。そのような社会においては、いかなる情報にいかな る価値が見いだされるかという点についての自明性が成立しづら い。したがって、他者との不用意な摩擦を回避しよりポジティブ な社会関係を構築するためには、日常生活の様々な場面で情報の 価値に対する見方の相違について、常に慎重な判断を下すことが 要求される。上記の問題意識をふまえ、情報の価値の問題を記号 論の立場から考察する。記号論は「記号=人間が意味や価値を見 いだすあらゆるもの」を考察の対象とする学問である。特に今回 は記号論の立場から情報の価値と個人の価値観の関係や、価値観 の形成と共有を通した個人と社会集団の関係を論ずる。また、文 化・生活様式が多様化した社会において求められる想像力と判断 力について考察する。 斎藤俊則 (慶応義塾大 学非常勤講 師) 斎藤俊則 (慶応義塾大 学非常勤講 師)
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メディアと情報 による人間の心 の操作: 個人の価値観の形成とメディアの影響力について議論する。個 人の価値観は社会的な過程によって形成されるが、各種メディア によってもたらされる情報はその際のより所として大きな影響力 を持つ。そこから、メディアはしばしば、特定の価値観を集団的 に内面化させるための道具として用いられる。このような例とし て最も典型的なのは政治権力によるマスメディアへの介入とプロ パガンダの流布であるが、その他にも様々な例が存在する。たと えば企業による広告は、メディアを介してターゲットとなる個人 の価値観に訴えかけることにより、広告主である企業の意図に基 づいて各個人を集団的に動員するための装置であると見なすこと ができる。このような状況において個人が“個”としての自律性 を尊重しながら生きるためには、メディアからの情報に対する批 判的な距離を保つことが重要となる。ここでは、個人がメディア を通して特定の価値観を内面化するプロセスを考察するととも に、メディアに接しつつも批判的な距離を保つことの可能性を議 論する。 同上同上
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情報技術とルー ル: 現在は、大量の情報を容易に収集・複製・転送ができるように なった。「見えないIT(情報技術)」の回で述べたように、我々の 現代社会システムには、情報技術、特にコンピュータとインター ネットの影響を受けたものが多い。しかし、著作物や個人情報を 扱う場合には、それをどのように収集するか、どのように複製で きるか、誰に転送をして良いかというルールの形成が必要となる。 これらのルールに反すると、過失の場合は事故、故意の場合は犯 罪となるが、法的な制裁を受けることになる。ここでは、情報に 関連する法令や取り決め・ルールなどについて述べ、その存在意 義について議論を行なう。 辰己丈夫辰己丈夫 2004/11/05 1540300.doc 4 回テーマ内容 執筆担当 講師名 (所属・職名) 放送担当 講師名 ( 所属・職 名)
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個人情報と情報 危機管理: 情報社会の発展にとっては、前回に述べた法的な抑止のみなら ず、技術的な抑止、あるいは制度・教育・人事・財産的な抑止も 重要である。例えば、情報社会においても、一般社会と同様に、 何らかの意図を持ってルールを意図的に破ろうとする犯罪者が存 在する。セキュリティ技術とは、このような犯罪を防ぐ技術のこ とである。また、障害を未然にできるだけ防ぐ方法、障害が起こ ったときの対応、障害が起こったときのための準備、障害が起こ った後の見直しといった危機管理の考え方も大切である。ここで は、情報社会における危機管理の一般的な手法について議論を行 なう。 同上同上
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情報システムと モデル化: 情報化社会における重要な道具であるコンピュータを使いこな すためには、コンピュータに適したものの見方や理解の仕方を身 につけておかなければならない。コンピュータはソフトウェアと して与えるモデル(模式)に従って計算する機械にすぎない。最 も単純なモデルは数式であり、数式を計算する道具として"コンピ ュータ"(計算するもの)が開発された。しかし、計算の手順を書い た"プログラム"の存在によって、コンピュータで計算できるモデ ルは数式以外のものに拡張されることになった。ここでは、より 高度なモデルとして状態機械モデル、及び、オブジェクトモデル を取り上げる。コンピュータに適したモデルとはどのような性質 を持つものかを理解することで、コンピュータに複雑な計算をさ せるにはどうしたらよいかを学ぶ。これを踏まえ、コンピュータ でできる計算の可能性と限界について考察する。 大岩元 中鉢欣秀 (ニューメリ ック社社長) 大岩元 中鉢欣秀 (ニューメリ ック社社長)
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現実世界と形式 世界: 現実世界にある様々な問題をコンピュータで解決しようとする と、現実をどのようにモデル化するべきなのかという問題が常に 発生する。コンピュータの世界は、モデル化された現実を記述し た論理の世界であり、これを形式世界と呼ぶことにしよう。これ に対して人間は、論理だけでは説明できない非形式的なことを含 む世界に生きている。このため人が現実世界でコンピュータを活 用するには、非形式的な世界の中から形式化できる部分をモデル として取り出す作業を行わなければならない。さらに、その作業 の結果は、コンピュータを利用する社会全体にとって恩恵をもた らすようにすべきである。ソフトウェア工学における要求分析を 例に挙げて、その難しさをどのようにして克服する方法があるか を、具体的な作業手順とともに示す。 大岩元 中鉢欣秀 (ニューメリ ック社社長) 大岩元 中鉢欣秀 (ニューメリ ック社社長)
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これからの情報 社会: 情報技術は、当初は半導体技術の発展に支えられてきた。しか し、半導体の微細化が物理学的限界に近づきつつある現在、情報 社会は複雑なソフトウェア、完成されたシステム、人と組織の深 化、社会における情報技術の普及と地位向上を必要とするように なった。ところが、プログラム作成者、システム設計者、プロジ ェクト管理者、情報教育に携わる教員は世界中で不足していて、 これが情報化の進展を妨げる最大の要因となっている。特に日本 では、このことが深刻な問題になっている。 今後の情報化の進展は、我々の社会をどのように変えていくの か、そのために社会は何をする必要があるのかを、情報社会のあ り方を見据えて議論する。 大岩元 辰己丈夫 大岩元 辰己丈夫