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科目名計算科学
(03)
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=計算科学(‘03)=(
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)
〔主任講師: 杉本大一郎(放送大学教授)〕
全体のねらい
理論と実験というこれまでの科学の方法に加えて、新しく台頭し、今や主要な方法の一つに成長したものに計算科学があ る。計算科学
(computational science)
はしばしば計算機科学
(computer science)
と混同されるが、後者が計算や通信をする機 械そのものと計算のアルゴリズム(手順)を問題にするのに対し、前者は計算という手法をとおして現実の世界を探求し技 術を展開していく営みである。それは、これまでの数学によって解析的に扱うことは不可能であった諸問題にまで人類の活 動範囲を広げ、非線形的に強く相互作用し合っているシステムの振舞を解明しつつある。この科目では、計算科学によって 初めて解明することが可能になったものをとりあげ、計算科学が近未来的に持つ意義を探り、どのようなパラダイム転換に 通じるかを考える。計算科学の現状については、諸分野における数
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名の研究者にロケ取材等をとおして協力を得ながら 紹介する。計算科学は計算機そのものではなく科学が目的であるが、それを遂行するためには既存の計算機を超える超高速 の計算機も、科学者自らが開発しなければならない。そのような営みも紹介する。この講義では、計算科学の詳細よりも、 それがもたらしつつあるパラダイム・シフトとその意味に重点をおく。文科系の履修者には、その意義を感じ取ってもらい たい。何段もの階層にわたって相互作用のある複雑な非線形システムが解明出来るようになることや、そこで培われるシス テムの理解のしかたの進歩は、社会や人間を科学的に理解する方法論にもつながっていくと思われるからである。
回テーマ内容 執筆担当 講師名 (所属・職名) 放送担当 講師名 (所属・職名)
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計算科学とは この科目の目的を述べ、計算科学と計算機科学の違いを考 え、全体の導入とする。先ずは、直感にもっとも訴えやすい 航空機や列車などの数値流体力学を例にして、計算科学で何 が出来るかを理解してもらう。 杉本大一郎 (放送大学教 授) 杉本大一郎 (放送大学教 授)
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要素的問題と大自 由度問題 もう
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つの分かりやすい例として、技術と工学の例を考え る。近年の計算機の発達によって、個々の要素については比較 的簡単に実用的な設計をすることが可能になった。それに対し 大規模なシステムでは、それを要素に分けていっても何千万個 の変数(自由度)によらないと記述したり解析したりすること が出来ないものがある。大規模計算力学の例で論ずる。 同上同上
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計算科学と非線形 の世界 計算科学の最も基本的な特徴は非線形問題を扱えるというこ とである。要素間の相互作用が本質的なシステムは数理的に は非線形になるが、そのような数学的構造を持つものは、解 析的に(数式だけで)解明する数学がないからである。計算 科学でそのような問題が扱えるようになって、どのように新 しいパラダイムが開けることになったかを、歴史的な経過も 含めて考える。 同上同上
大きい波のほうが小さい波を追い越してしまう。
非線形とカオス
非線形世界のパラダイムを求めて
線形(リニア=直線)
非線形
一次関数
一次関数以外
原因と結果だけでなく、全体のシステムも含めて総合的に理解していく。とき方の一般方法はまったくない!
左は解ける、右は解けない。計算科学はそれを超える挑戦をしている。
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超大型計算機によ る地球のシミュレ ーション 汎用計算計算機では世界最大・最高速の計算機システムが日 本で構築された。地球シミュレーターである。主な応用は気象、 海洋とそれらの長期的変動に関わる気候の問題である。地球と いう回転している球の表面で、しかも高さの方向に物理状態が 大きく変化している問題であるうえに、局地的な渦から地球全 域の流れまでが相互に作用し合っている問題への取り組みで ある。 同上同上
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計算機で素粒子と 宇宙を探る 陽子や中性子などの素粒子もそれより細かい構造を持って おり、クォークによって記述される。しかしクォークは実験に よって単独で取り出すことが出来ないので、その研究は計算科 学と実験の併用によるしかない。格子
QCD (Quantum Chromo-Dynamics)
によるそのような研究は、相対性理論の効果 もあって大自由度の計算になる。そのために設計された計算機 は、宇宙の比較的初期や物性物理学の研究にも使われている。 同上同上
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科目名計算科学
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回テーマ内容 執筆担当 講師名 (所属・職名) 放送担当 講師名 (所属・職名)
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科学研究のために 作る計算機 筑波大学計算物理学研究センターは、前回に述べた格子
QCD
の計算のために調整された計算機
QCDPAX
を、企業と協 力しながら製作した。それは連続体用の超高速並列計算機で ある。いっぽう、東京大学は多数の天体が互いに重力で相互 作用しているシステムで形態形成が起こり、進化する様子を 研究するために、多粒子系用の超並列計算機
GRAPE
を開発し た。後者は特定目的用の計算機ではあるが、この講義を製作 している
2002
年現在、世界最高速の計算機になっている。 杉本大一郎杉本大一郎
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異なる対象と共通 の論理 一見、異なるもののように見えるシステムどうし、またス ケールが全く異なる現象どうしでも、数理構造的に見ると共 通のものだという場合がある。ここでは、核融合プラズマ、 太陽表面の活動現象、天体の誕生と進化の研究を比較する。 また、前回に述べた天体用計算機
GRAPE
の論理構造も、第
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回に述べるたんぱく質などの分子動力学の問題に移し変える ことができる。 同上同上
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ミクロとマクロの 橋渡し われわれの見るマクロな物質の性質は、それを構成する原子 分子レベルの物理的性質の反映である。しかし
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の
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乗個と いう、無限個と言ってもいいほどの分子による総合的性質をど のようにして計算して、マクロな性質につなげればよいのであ ろうか。モンテカルロ法などに言及しながら考える。実際に計 算出来るのは要素の数が有限のものなのだが、それが現実のも のにどのようにスケーリングされ得るかについても考える。 堂寺知成 (京都大学教 授) 堂寺知成 (京都大学教 授)
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たんぱく質の立体 構造の探求 たんぱく質はアミノ酸が鎖状につながったものであるが、 その鎖が自分自身の内部の相互作用によって折り畳まれ、あ る種の立体構造を持つようになる。そして、その立体構造が たんぱく質の生命科学的な機能を規定する。その様子は分子 動力学や(変形された)モンテカルロ法によって求められる。 この問題は、極めて複雑なエネルギー地形
(landscape)
をもつシ ステムで、エネルギー最小値とその状態を求めるという意味 で、一般性をもつ。 杉本大一郎杉本大一郎
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量子力学の世界と 物性 原子・分子のミクロの世界は量子力学によって記述され、位 置と運動量が同時に正確には定まらないという不確定性原理 が主役を演ずる。そのような不確定性を含む現象はどのように シミュレーションされるであろうか。典型的な例として、量子 効果が強く現われる液体や固体の水素の問題と、相互作用が本 質的な強相関電子系において古い秩序の競合が新しい秩序へ 転移する問題を考える。 同上同上
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計算科学国際学会 日本学術振興会が行って来た未来開拓学術研究推進事業の なかで、その
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つのテーマとして「計算科学」の分野が取り上 げられた。その成果に関連して開催された国際学会の出席者か ら、計算科学に関する成果と見解を伺う。 同上同上
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計算機とデータの グリッド 各研究所等にある計算機と、実験やそこで得られるデータ を世界規模でグリッド(格子)状に結合し、計算機科学と共 に計算科学を進めるというプロジェクトが進行しつつある。 それによって何が出来るか、どのような新しいパラダイムが 開けるかについて考える。 同上同上
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科目名計算科学
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回テーマ内容 執筆担当 講師名 (所属・職名) 放送担当 講師名 (所属・職名)
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外国での取り組み 計算科学に新しい手法とその組織的実行を導入するのに、高 エネルギー物理学の貢献は大きい。格子
QCD
の研究を中心に この問題を取り上げ、紹介する。 杉本大一郎杉本大一郎
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計算科学のポリシ ー 計算科学によって、今後の科学研究にどのような新しい局 面が開かれるであろうか。またそのためには、どのようなポ リシーが必要であろうか。この問題について、自由に考える。同上同上
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まとめと計算科学 の将来 計算科学の将来と夢について、自由に語るパネル・ディスカ ッション。 同上同上