HOME 2003/11/15 1623214.doc 1 =教育の社会文化史(‘04)=( TV 〔主任講師:辻本雅史(京都大学大学院教授)〕 全体のねらい 「教育」を学校教育に限らず、歴史の社会に埋め込まれた文化システムの一環ととらえる立場から、近世以後の日本の 教育の歴史をたどる。それによって、教育を過度に独占したいまの学校の歴史的位置を確認し、近代教育の歴史的特質 を提示したい。さらに日系移民の教育や植民地下の教育をみることで、近代教育が一国内に限ることができない問題を 抱えていることにも理解を深め、グローバル化時代の教育が直面する諸問題を考える方向を探りたい。 回テーマ内容 執筆担当 講師名 (所属・職名) 放送担当 講師名 (所属・職名)
「文字社会」の成立 はじめに、歴史の視点から教育を考えることの意味を提示 する。ついで日本の教育の歴史において、近世以前とそれ以 後を画する指標を、社会生活のうちに文字が組み込まれた「文 字社会」の成立ととらえ、近世に文文字社会が成立した要因 とその意義について考える。さらにこの列島内において、文 字の書体や文書の様式にいたるまで文字に関わる文化が比較 的共通したかたちで成立したことを指摘し、近世の教育文化 の特質をさぐりたい。 辻本雅史 (京都大学大 学院教授) 辻本雅史 (京都大学大 学院教授)
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近世社会における 人間形成 子どもが大人の保護を受けつつも、やがては自立して一人 前になっていく過程の歴史的変容について講ずる。子どもが 一人前になっていく過程は、いつの時代にも変わらない繰り 返しのようも思われるが、人間の場合には、この一人前にな る過程そのものが、歴史的な変容を来しながら今日に至って いる。本講義では、子どもが一人前になる過程について、近 世における「家」や職業のありかたと関わらせて考察する。 八鍬友広 (新潟大学助 教授) 八鍬友広 (新潟大学助 教授)
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近世民衆における 文字学びの広がり 文字を学ぶという行為が、いかにして民衆の間に広まって いったのかということについて講ずる。文字を学ぶ行為は、 言語の獲得と異なり、生活の過程とは独自の特別な習得の過 程を構成している。近世という時代は、このような特別な習 得の過程が民衆の間に広まっていくうえでひとつの画期とな っている。本講義では、近世における民衆の文字学びの広が りと、その特質について考察する。 同上同上
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出版文化と教育 近世は商業出版が成立した時代である。出版は知を伝達す るひとつのメディアである。出版の普及は、文字文化の定型 化と大衆化を進展させ、学ぶべき共通のテキストや今に続く 日本の「古典」を成立させて、近世人の「教養」を形づくっ た。近世の教育を出版文化の視点からとらえてみることで、 近世人の文字を通した学びの諸相を考える。 辻本雅史 辻本雅史
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近世の学びの文化 とその思想―貝原 益軒から考える− 相手 貝原益軒を近世人通有の思想を儒学の言葉で表現した儒家 知識人ととらえ、子どもの教育を論じた『和俗童子訓』を素 材に、近世教育の文化的特質をさぐる。それは、子ども自身 が身体を通じて為す「模倣」と「習熟」による人間形成にモ デル化できる。そのモデルは、文字や学問の学びにとどまら ず、文化伝承に関わる全域に内在していることに気づかされ る。そこでの「学びの文化」の特質を近代の学習や教育と対 比しながら考える。 同上同上 2003/11/15 1623214.doc 2 回テーマ内容 執筆担当 講師名 (所属・職名) 放送担当 講師名 (所属・職名)
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民衆教化と教育の 諸相―政治の教化 と心学運動― 18世紀以後の幕藩政治は積極的に民衆教化にとりくんだ。 それは幕藩政治が民衆への「教育」を「発見」していった過 程とみることができる。それが日本近代につながっていくそ の特質について考える。その一方、民衆世界においても、社 会を生き抜く困難を克服するために、さまざまな自己教育的 な教化運動をおこしていった。ここではその特質を、石門心 学をひとつの素材にして考えてみる。 辻本雅史辻本雅史
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近代教育の進路を めぐって 「学制」(1872 年)をもって、本格的に日本の近代教育制 度は出発する。しかしそれはひとつの出発にすぎず、「学制」 頒布後、近代教育の理念と進路をめぐって議論が始まる。欧 米を実地調査した田中不二麻呂の国民教育論と元田永孚の教 学論を対比しながら、近代教育めぐる多様な構想について考 える。 森川輝紀 (埼玉大学教 授) 森川輝紀 (埼玉大学教 授)
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教育勅語の成立と 教育体制の整備 近代化=欧米化と伝統文化=国民(臣民)道徳の相克の中 で、教育勅語が作成される。教育勅語成立の意味と国民教育 への影響について説明する。また、1900 年代初頭に整備され ていく国民教育のシステム(教科書制度、学校行事、学校儀 式、等)と、近代の身体、近代の時間、国語の形成について 考える。 同上同上
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大衆化する社会と 教育 日露戦後の都市化の進行にともない、二つの相反する教育 論が展開する。都市的文化を背景とする新教育論と個の自立 と競争を抑制する国民道徳論について説明する。とくに、井 上哲次郎の言説に即して国民道徳論の問題性と学問と教育の 区別という日本的学校論の特質について考える。また、教員 社会の成立とその動向についても説明する。 同上同上
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経済恐慌と戦時下 の教育 1929 年に始まる経済恐慌は産業構造に即した「役に立つ教 育」論を生み出していく。この教育論は、「滅私奉公」の国 家主義と生活に必要な学力主義へと分化していく。そのプロ セスを地域社会の動向に即して説明する。次に「近代教育」 批判をめぐって展開される教学刷新運動、戦時下教育のキー ワードとなる「皇国ノ道」「錬成」教育とは何であったのかを 考える。 森川輝紀 (埼玉大学教 授) 森川輝紀 (埼玉大学教 授)
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移民教育と異文化 理解(1) 近代初頭の日本の民衆にとって、外国像は、ごく少数の例 外を除いてそのほとんどが渡航体験を持つ知識人や国家の文 化装置をろ過して形成されてきたものに他ならない。しかし、 この時代に外国にわたり生活を通して異なる文化と接触し、 自文化との葛藤をへながら新しい文化を模索した一団の人々 がいた。移民と呼ばれるこれらの人々の子弟教育の実際と、 移民教育に対する日本人の期待を明らかにする。それいよっ て、近代日本の教育が果たせなかった「もう一つ」の近代教 育像を考えてみたい。 沖田行司 (同志社大学 教授) 沖田行司 (同志社大学 教授)
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移民教育と異文化 理解(2) 1868(明治元)年に始まるハワイへの日本人移民は、その 子弟教育のために日本人学校を創設した。しかし、ハワイが アメリカ合衆国に併合され、アメリカの市民教育が義務づけ られると、日本人学校との間で大きな摩擦を生じるようにな った。アメリカ市民の養成と日本国民の創出という両国の教 育方針の狭間で、日本人学校の歴史を辿ることにより、日系 アメリカ人の苦悩と葛藤が何を意味するのか、そしてそれら が日本の近代教育史にとってどのような問題を提示している のかを明らかにしたい。 同上同上 2003/11/15 1623214.doc 3 回テーマ内容 執筆担当 講師名 (所属・職名) 放送担当 講師名 (所属・職名)
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植民地支配と教育 (1) 日本はかつて台湾・朝鮮などの地域を植民地としていた。 日本人の多くはその事実を忘却しているが、植民地とされた 地域には日本の支配の痕跡がさまざまな形で残り、今日でも 人々は支配の痕跡に直面しながら生活している。そのギャッ プを少しでも埋めるために、「植民地」とは何なのか、植民 地における教育は日本内地の教育とどのように異なり、どの ような特徴を持っていたのか、総論的に考察する。 駒込武 (京都大学大 学院助教授) 駒込武 (京都大学大 学院助教授)
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植民地支配と教育 (2) 植民地における教育は、はたして「教育の近代化」に貢献 したのだろうか?この問いに対する答えは、教育における「近 代」をどのように捉えるかによって変わってくる。イギリス 人宣教師が台湾に設立したミッション・スクールの歴史を事 例としながら、欧米人や日本人が「恩恵」としてもたらそう とした「近代」と、植民地化された人々の求めた「近代」の 重なりとズレについて考える。 同上同上
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歴史から教育を考 える 日本における近世と近代の教育の歴史的特質を大きく整理 してとらえ、その意義について考え、講義のまとめとする。 歴史の側から教育をとらえることは、こんにち直面する諸問 題を、遠くからの視点から、根元的かつ批判的に考えること を可能にするだろう。たとえば教育を過度に抱え込んでしま う学校が20世紀に固有の歴史現象だと気づいたときに、学 校だけにとらわれない教育のあり方や、生涯にわたる「学習 社会」への方向性もみえてくるに違いない。メディア史の視 点も入れて、21世紀の新たな教育の方向も示唆したい。 辻本雅史 辻本雅史