HOME - 1 - =乳幼児心理学(‘02)=(TV 〔主任講師: 内田伸子(お茶の水女子大学大学院教授)〕 全体のねらい 近年、乳幼児期を対象にした研究がますます隆盛になり、生得性をめぐる議論も白熱している。前著『乳幼児心理学』と 同様、乳幼児の発達を全般的に扱うという方針のもとに新しい知見が蓄積されつつある発達初期の問題を多角的にとりあげ、 この時期の発達がこれに続く児童期以降の発達にとって重要な意義をもつものであることを理解していただくことをねら いとする。 回テーマ内容 執筆担当 講師名 (所属・職名) 放送担当 講師名 (所属・職名)
1
人間発達の可塑性 −乳幼児期の発達 の重要性− ヒトは生物学的要因を土台に、文化・社会的要因の影響を 受けながら「人間化」への歩みを進める。現代の日本には、 十分な養育を受けられない環境下で発達遅滞を起こしている 子ども、虐待やその逆の過保護により偏った社会・文化的要 因に曝されることになり、子どもの心とからだに発達の遅滞 がもたらされる事例が多く見られる。子どものその後の発達 過程に影響を与えるという点からみると乳幼児期の発達は全 生涯のうち最も重要である。しかし、いかに生育環境が劣悪 であろうとも、人的環境の改善により子どもは見事に立ち直 っていく。乳幼児初期の問題を克服して発達していく子ども の姿は人間発達の可塑性がいかに大きいものであるかを私た ちに知らせてくれるのである。 内田伸子 (お茶の水女 子大学大学院 教授) 内田伸子 (お茶の水女 子大学大学院 教授)
2
乳幼児期の認識能 最近の発達心理学は、これまで考えられていたのよりもず っと高い能力を乳児が身につけていることを明らかにして いる。一見、何もわかっていないような乳児だが、彼らは 自分を取り巻く世界がどのようであるかについての、ごく基 礎的な知識や枠組みを持って生まれてくる。そうした知識や 枠組みがあるがゆえに、乳児は、自分の周りにいる人やもの、 出来事について、驚くほど速く学習することができるのであ る。ここでは、発達初期の乳児の様々な能力について見てゆ く。 江尻桂子 (茨城キリス ト教大学専任 講師) 江尻桂子 (茨城キリス ト教大学専任 講師)
3
発達初期の気質と 行動 いろいろな子どもたちと接してみて驚くのは、いかにひと りひとりの子どもの気質が違っているかということであろ う。活発な子どももいれば、のんびりした子どももいる。我々 が子どもの行動発達について考える時、その子の気質がどう であるかということも考慮してゆかねばならない。ここでは、 気質にはどのようなタイプがあるか、また、気質は、母子関 係とどのように関係しているのかといったことを中心に見て ゆく。 同上同上
4
情動の機能と発達 情動についての考え方が大きく変わってきた。乳幼児の情 動は、文脈的・関係的に理解される。乳幼児は、情動を発達 させると同時に、養育者や環境との関わりを通じて、情動制 御を発達させる。情動制御は、文化の影響を受ける。最近の 研究を中心に、これらの問題を考察する。 氏家達夫 (名古屋大学 教授) 氏家達夫 (名古屋大学 教授)
5
養育者-子システム と愛着の発達 およそ生後1 年間で、養育者と子どもは互いに相手に適応 し、子どもは愛着と呼ばれる情緒的絆を発達させる。愛着の 発達プロセスには、子どもの特徴や養育者の特徴、文化的社 会的要因が複雑に絡まりあっている。愛着の発達を切り口に、 養育者と子どもの相互適応プロセスを跡づける。 氏家達夫氏家達夫 - 2 - 回テーマ内容 執筆担当 講師名 (所属・職名) 放送担当 講師名 (所属・職名)
6
世界を捉えるしくみ −象徴機能の発生と 認知機能の発達− 誕生時から子どもは感覚器官をフル回転させて環境と活発 にやり取りしている。人を含めた回りの環境との感覚的運動 的なやり取りを通じて子どもは外界についての認識を形成し ていく。乳児期の終わりには「三項関係」が成立して内面世 界が出現し「象徴機能」が発生する。感覚運動的段階から表 象の段階で世界や自己を捉える概念が成立し、想像力も発達 する。幼児期の終わりには自己を自分の意志で制御できるよ うになる。また、外界の規則性を直観的に把握する直観的思 考段階にいたる。 内田伸子内田伸子
7
ことばの生まれる道 筋 −言語機能の発達− 言語は象徴機能の成立を基盤にして外界認識の手段として 成立する。ことば(発話行為)が認識過程に深くかかわるよ うになるのとほぼ同時に、人とやり取りする手段として人と の関係を作る働きをも担うようになる。ことばは人と社会的 やり取りを通して、意志や情動、認識と絡み合い、表象(イ メージ)の形成や認識を深める手段となり幼児期の終わりま でには、自己や世界を表現するためのディスコース(談話) が成立するようになる。 同上同上
8
対人関係-家族と地 域社会の影響 赤ちゃんの誕生にともない夫婦という2者関係から3者関 係へと変化する。このことは、夫婦関係に加えて父子関係と 母子関係の新たな関係のシステムができることを意味する。 また、下に弟や妹が生まれるときょうだい関係も成立する。 そして、この家族のメンバーの発達にともない相互の役割や 関係のシステムそれ自体も変化する。乳幼児にとって家族が 最も重要な影響要因であることは異論の余地がないが、家族 の外の人間関係の影響力も大きく、それは私たちが考えるよ りも早い時期から認められている。さらに、両親の子育てに 対する地域社会の子育て支援のネットワークやサポートシス テムの影響についても考えてみたい。 臼井博 (北海道教育 大学教授) 臼井博 (北海道教育 大学教授)
9
自他についての理 解の発達 自他についての理解の発達について、乳児期終わり頃から の意図の理解や共同注意、振り・見立ての成立、心の理論の 成立、幼児の自己概念の特徴、他者の人格の理解、などの視 点から考察する。 無藤隆 (白梅学園短 期大学学長) 無藤隆 (白梅学園短 期大学学長)
10
幼児の遊びと仲間 関係 幼児の遊びの発達について、象徴遊び、ごっこ遊びを取り 上げて考察する。さらに、仲間関係の発達について1・2歳 児の仲間関係の始まり、仲間とのやり取りの能力の個人差の 観点から論考を進める。無藤隆無藤隆
11
自律性の発達-自己 主張と自己制御 自律性の発達は、自己主張と自己制御の両面からなってい る。自律性の発達は、社会化方略と子どもの特徴との相互作 用として発達する。子どもの自己主張の意味づけや取り扱い、 自己制御を要求する度合いや文脈は文化によって異なってい る。最近の研究を中心に、これらの問題を考察する。氏家達夫氏家達夫 - 3 - 回テーマ内容 執筆担当 講師名 (所属・職名) 放送担当 講師名 (所属・職名)
12
日本の幼児教育実 践者の信念と教育 方法 今日就学前の幼児にとって幼児教育は誰もが経験する普遍 的な経験である。だが、義務教育の小中学校に比べると幼児 教育を担う幼稚園や保育園はその大半が私立であり、教育の 目標やその実践の方法も公立学校に比べるとずっと多様性が 大きい。にもかかわらず教師たちの教育の目標、子ども観、 指導観などの信念や具体的な実践方法についてはかなりの共 通性がある。それは教師たちの間でこうした教育についての 知識や技能についての文化的なプールを共有しているからに 他ならない。ここでは、比較文化の視点から日本の幼児教育 を支える実践者の信念と具体的な教育方法の特徴について考 えてみたい。 臼井博臼井博
13
読み書き能力の獲 得 − 一次的ことば から二次的ことば へ− 幼児期の終わり頃までには、子どもは一次的ことば(生活 言語)から二次的ことば、すなわち、読み書きの世界への第 一歩を踏み出す。読み書きを媒介にして子どもの世界は時 間・空間を隔てた伝達を可能にし、子どもの意識は「今」「こ こ」を超えて広がるようになる。また、文字はことばについ てメタ的に捉えることを可能にする。考える手段としてのこ とばは一層確実なものになる。個人的なやり取りの中で育ま れた「一次的ことば(生活言語)は読み書きの習得に伴い質 的に改変され、公共性の高い二次的ことばに移行する。 内田伸子内田伸子
14
発達のリスクと臨 床への基礎 乳幼児期の発達におけるリスクを取り上げ臨床への応用の 方途を探る。そのために、親子関係のリスク、子ども自身の リスク、環境のリスク(含む、メディアや早期教育など)、 仲間関係の問題、情動制御の発達と育成、家族への援助と介 入の諸点から考察する。無藤隆無藤隆
15
乳幼児期から児童 期へ:発達的な移行 期を生きる これまでの1章から14章までで、乳児期から小学校の入 学前の時期までの発達のさまざまな側面とそれらに影響を及 ぼす諸要因について多面的に、かつダイナミックに描いてき た。ここでは、これらを受けて幼稚園の年長から小学校の1 年生にかけての発達的移行期に焦点を当てて、この時期に起 こる重要な発達的な変化について考えてみたい。 臼井博臼井博