2004/11/05 8920150.doc 1
= 生命環境科学 I (‘05)=(TV)
−生物多様性の成り立ち−
〔 主 任 講 師: 松本 忠夫(東京大学大学院教授)〕
全体のねらい
生命体は様々な地球環境のもとで、おそらく40億年近くかけて進化してきたが、そ
の結果として、今
日の大きな生物多様性が見られる。そのような多様な生命体の姿は、ゲノムの中の遺
伝情報が表現型と
して表れたものである。本講義では、遺伝情報がどのようにして進化史の中で改変
し、また現実にどの
ように発現されて多様化しているのかを環境との対比で見ることとする。さらに、野
外自然における生
物多様性の調査法を解説すると共に、人間活動が生物多様性の減少に大きく影響して
いる現代の様相を
見ることにする。
回 テーマ 内 容
執筆担当
講師名
(所属・職名)
放送担当
講師名
(所属・職名)
1
「生命環境科学I」
のねらい、生物多様
性について
今日の生物の多様性が生じた理由は実にさまざまであるが、
特に大きな理由として無機環境への適応性、生活資源の獲得
力、そして生物間の相互作用がある。それらに関しての様相
を概観し、本講義全体のねらいを解説する。
松本 忠夫
(東京大学大
学院教授)
松本 忠夫
(東京大学大
学院教授)
2
様々な生物社会と
その成立メカニズ
ム
生物は多かれ少なかれ、同種個体が集団(群れ、群落、コロ
ニーなど)を形成して生活しているものが多い。そのような
集団を社会と見ることができるが、いかなる理由でそれらの
社会が成立しているのかについて、特に環境との関連で説明
する。
松本 忠夫 松本 忠夫
3
植物の多様な繁殖
様式と、動物との関
係
植物では、動物とは個体性が大きく異なり、動物にはみられ
ない多様な性表現が存在する。ここでは、被子植物にみられ
る性表現と受粉様式の進化を解説するとともに、それには動
物の影響が大きかったことを紹介する。また、植物が動物か
らの摂食に耐えるためのさまざまな適応戦略を説明する。
松本 忠夫
大原 雅
(北海道大学
大学院教授)
松本 忠夫
大原 雅
(北海道大学
大学院教授)
4
動物の多様な繁殖
様式
通常の動物は有性生殖を行うが、中には単為生殖、多胚生殖、
幼形生殖などの無性生殖を行うものがいる。また、親による
子の保護様式と関係して、卵生、卵胎生、胎生などが見られ
る。さらに哺乳類では雌親による授乳が発達している。本章
では、このように多様な動物の繁殖様式を説明する。
松本 忠夫
松本 忠夫
2004/11/05 8920150.doc 2
回 テーマ 内 容
執筆担当
講師名
(所属・職名)
放送担当
講師名
(所属・職名)
5
植物の発生と環境
適応
植物は固着生物なので、環境に対して柔軟に適応する能力が
進化の過程で発達した。中でも植物の生活を支えている光合
成に関しては、環境適応が必須のため、光合成器官である葉
の発生は、外界の環境に適応して実に大きな可塑性を発揮す
る。葉の発生の可塑性と環境適応との関係について、発生を
制御する遺伝子の働きの視点から、現在の理解を紹介する。
塚谷 裕一
(自然科学研
究機構助教
授)
塚谷 裕一
(自然科学研
究機構助教
授)
6
動物の発生と環境
適応
(1) 諸事例
動物の中には、発生・発育過程において環境の影響を受けて、
その形態や性質が大きく変化するものたちがいる。生存のた
めの環境適応と解釈される。また、繁殖における戦略として
性転換をする魚類、さらには昆虫類の環境適応としての多型
現象にもふれる。そして、そのような多様な形態や性質をも
たらす進化的要因および体内メカニズムについて説明する。
松本 忠夫 松本 忠夫
7
動物の発生と環境
適応
(2) 昆虫の翅形質
の例
昆虫類はその進化の中で翅を獲得することで陸上に大きく繁
栄できた。しかし、昆虫によっては翅を形成しない種類もい
る。一方、チョウ類のように翅の色彩や斑紋が華美であった
り、擬態していたり多彩な分類群がいる。ここではそのよう
な昆虫類における翅形成の有無、色彩や斑紋の多様性などが
成立するに至った進化的要因および翅形成の体内メカニズム
について説明する。
松本 忠夫
三浦 徹
(北海道大学
大学院助教
授)
松本 忠夫
三浦 徹
(北海道大学
大学院助教
授)
8
社会性生物におけ
るカースト分化
社会性生物は、集団で生活し、その中に少数の生殖者そして
多数のワーカーや兵隊など非生殖者といったカースト分化が
見られることを特徴としている。そして、陸域において大繁
栄している。ここでは動物の社会性について解説する。そし
て、繁栄の鍵となっているカースト分化がもたらされた進化
的要因およびカースト分化の分子生物学的メカニズムについ
ておもにシロアリを例にして説明する。
松本 忠夫
三浦 徹
松本 忠夫
三浦 徹
9
社会行動の発現メ
カニズム、
ミツバチの例
ミツバチは多様なハチ類の中でも最も高度な社会性を獲得し
た昆虫として、分子生物学の分野で近年、注目されつつある。
そして、その多様かつ複雑な行動、特に、働きバチたちが利
用するダンス言語(記号的言語)や、コロニーを防衛するた
めの攻撃行動(利他行動)は、脳機能の進化という観点から
興味深いものである。ここではミツバチを巡る分子社会生物
学の現状を紹介し、その将来像を展望する。
久保 健雄
( 東京大学大
学院教授)
久保 健雄
( 東京大学大
学院教授)
10
菌類における環境
適応
菌類の環境適応は、意外に理解が乏しいが、菌類も外界の環
境に対する適応的な反応を行なうことが知られている。ここ
では特に、大型真菌類の子実体(いわゆる茸の部分)におけ
る環境適応をとりあげる。また重力に対しても子実体は顕著
な反応を示す。これらが胞子散布に果たす役割を概説する。
塚谷 裕一 塚谷 裕一
11
菌類の形態形成メ
カニズム
菌類の形態形成は、その組織構造の点でかなり特異である。
例えば細胞性粘菌は、アメーバ状の細胞が集合した後、互い
にシグナルをやりとりして、機能分担をしながら多細胞から
なる形態形成を成し遂げる。また真菌類の子実体は、多細胞
の器官であるが、基本的に菌糸が複雑にからまりあいながら
作り上げられており、分化の程度は浅く、脱分化・再分化が
容易に起こる。これらの形態形成メカニズムは未だ十分理解
されていないが、特異な機構であり、注目に値する。
塚谷 裕一 塚谷 裕一
2004/11/05 8920150.doc 3
回 テーマ 内 容
執筆担当
講師名
(所属・職名)
放送担当
講師名
(所属・職名)
12
生物環境の調査法
(陸上生物)
植物群落は、陸上の生態系の一次生産を担い、また動物の生
息空間の構造を大きく規定している。植物の種組成や種多様
性、さらには動物の生息空間としての植物群落の構造を調査
するための方法と、その結果の分析法についてまず紹介する。
陸上の動物の調査法は、動物の種類に応じた様々な方法が知
られているが、ここではその中から鳥類の個体数調査法を取
り上げ、解説するとともに、調査結果を植物群落の調査結果
と対応づけるやり方についても概観する。
加藤 和弘
(東京大学大
学院助教授)
加藤 和弘
(東京大学大
学院助教授)
13
生物環境の調査法
(水界生物)
水界にも多様な生物が生育・生息しており、その調査方法は
生物の種類に応じて異なる。ここでは河川での生物調査を念
頭に置き、一次生産の主体である付着藻類と、調査が比較的
容易で環境指標性も高い底生無脊椎動物の調査方法について
説明する。さらに、そのような調査によって得られたデータ
を分析して、種多様性の数値化や生物相の地点間での比較、
さらには生物の生息環境の善し悪しの評価を行う手順につい
ても解説する。
加藤 和弘 加藤 和弘
14
人間活動と生命環
境科学(1)
生物の絶滅問題と
生物多様性の価値
現在の地球における生態系の多様性、種の多様性、遺伝子の
多様性に対しての人為の影響はたいへん大きい。そして、近
代では非常に多数の生物が絶滅し、現在も絶滅の危機に瀕し
ている生物が多い。特に熱帯多雨林域における森林群集全体
の喪失は、生物多様性を一気に著しく減少させてしまうので
重大問題である。ここでは、そのような生物絶滅の様相を説
明し、絶滅をくい止める方策について考える。さらに、生物
多様性の価値についても考える。
松本 忠夫 松本 忠夫
15
人間活動と生命環
境科学(2)
環境に放たれた人
工物質および移入
種の影響
近年、人間は生活向上のために、実に様々化学物質を作って
きた。そして、現在はある意味では大変便利な時代となった。
しかし、それらの化学物質そのものあるいは変形物は、環境
に放たれたとき、生命体をおびやかす物質としても働くもの
がある。その様な物質として殺虫剤、除草剤などいろいろあ
り、内分泌攪乱、ガン誘発などが疑われていて、それらは生
物多様性にも影響を与えていると思われる。そこでその様相
および対策について説明する。ここでは、さらに、世界の他
地域からの不用意な生物の移入が、在来生物相を圧迫してい
る例についてもふれる。
松本 忠夫 松本 忠夫