社会福祉の国際比較（‘０２）

HOME - 1 - ＝社会福祉の国際比較（‘０２）＝（ TV）－利用者主体のシステムをめざして－〔主任講師：松村祥子（放送大学教授）〕全体のねらい「福祉国家から福祉社会へ」というスローガンの下で先進諸国の社会福祉の理念や方法は大きな変化を遂げている。特に地方分権化や民営化が進む中で、公的社会福祉サービスと民間社会福祉サービスの役割変化、関連分野（医療、教育、住宅）との連携及び専門職とボランティアの関係なども変わってきている。本講義では、変革期にある各国の社会福祉の課題と方法を示したい。特に、利用者主体の制度をめざす我が国の社会福祉に必要なことを世界の事例から学びたい。回テーマ内容執筆担当講師名 (所属･職名) 放送担当講師名 (所属･職名)

1 世界の社会福祉を学ぶ視点経済、社会、文化の国際化の進展の中で、各国の社会福祉は大きな変革を迫られている。先進工業国では、少子高齢化や家族規模の縮小に伴う生活変化に対応するために、社会福祉の行財政と方法技術の改編、革新が行われている。他方、開発途上国では、一国内の貧困や生活格差との闘いだけでなく、雇用、生活環境の国際化による生活問題も深刻であり、従来とは異なる社会福祉の方法が求められている。相互依存の高まる国際社会の中で、世界の社会福祉を学ぶ視点を明らかにする。松村祥子（放送大学教授）松村祥子（放送大学教授）

2 世界の社会福祉の歩み長い歴史の中で積み重ねられてきた社会的生活支援の為の実践活動は、一般的には選別的で治安維持的なものから普遍的で権利擁護的なものに変化してきている。19 世紀末から20 世紀初頭の欧米諸国から広がった「近代的社会福祉」の理念、対象、方法等が何故、どんな経路で、どのような変容を伴いながら世界中に広がったのか。社会福祉の世界史年表から検討してみたい。同上同上

3 アメリカの社会福祉自立援助型といわれるアメリカの社会福祉の特色を次の観点より考察する。１）地方分権の原理に立った社会福祉政策、制度２）公的社会福祉サービスと民間社会福祉サービスの関係と財政３）社会福祉サービスの中心的思考。４）専門職とボランティアの関連と役割５）社会福祉サービスの将来への展望平山尚（東京福祉大学教授）平山尚（東京福祉大学教授）

4 スウェーデンの社会福祉社会福祉の世界的最前衛としてのこの国では、どのようなプロセスで高い質量の社会福祉活動が生み出されてきたのか。スウェーデン社会の構造とそこに暮らす人々の生活文化等も含めて検討したい。高福祉高負担型の福祉施策は、福祉サービスに対する社会的責任と個人の権利意識に支えられ、社会福祉の内実を豊かにしてきたが、EU に加盟した現在では、 EU 他諸国とどう調整をつけていくかの課題解決も不可避となってきている。外山義（元京都大学教授）外山義（元京都大学教授）

5 イギリスの社会福祉最低所得保障に重点をおく所得保障制度と、無料の国営医療を基礎とする医療保障制度とを中核とする福祉国家体制を確立してきたイギリスは、また、民間社会福祉の伝統を生かしつつ、独自の特色をもった社会福祉サービスの実施体制を築いてきた。ここでは、イギリスの社会福祉の特色について、コミュニティケアの推進、専門職制度、民間社会福祉の役割などを中心に分析するとともに、「コミュニティケア改革」の実施など近年の新たな政策の展開についても検討する。平岡公一（お茶の水女子大学教授）平岡公一（お茶の水女子大学教授） - 2 - 回テーマ内容執筆担当講師名 (所属･職名) 放送担当講師名 (所属･職名)

6 フランスの社会福祉フランスの社会福祉活動の実働はアソシアシオンと言われる非営利組織によって担われている。年金、医療、家族手当の運営機関である社会保障金庫や行政組織とともにユニークな体系の中で多元的で柔軟性のある社会福祉が実現されている。「社会的連帯」をキーワードとするフランスの状況を、 20 世紀初頭からの高齢化の進展や第二次大戦後のヨーロッパの国際的地位の変化をも視野に入れながら示してみたい。松村祥子松村祥子

7 タイの社会福祉貧困問題がアジア太平洋地域の開発途上国の社会開発問題の根底にあると言われているが、タイも例外ではない。 1997 年のタイバーツの暴落に端を発したアジアの経済危機は、全ての階層の経済生活に多大な影響を与えた。社会の低所得者層、特に、低所得の労働者層は、企業経営の建て直しの中で、多くの失業者を生み出した。タイの経済が緩やかに回復に向かう中でも、まだ、低所得者層の生活苦は続いている。このような中で、都会と農村部の格差はますます拡大している。農村部では過疎化が進み、都市部では、経済的な貧窮だけでなく、棄児や児童虐待、児童労働の問題、また売春や海外出稼ぎなどに絡んだ女性問題などが山積している。また、高齢者問題も家庭の崩壊の中で表面化している。福祉サービスがまだ十分に行き渡っていない中で、障害者の当事者運動は盛んで、タイの福祉施策の今後のあるべき姿を示唆している。開発途上国を代表するタイの社会福祉の現状と課題を考究する。高嶺豊（琉球大学教授）高嶺豊（琉球大学教授）

8 日本の社会福祉少子高齢化の進展に対応して介護保険の導入や児童手当の拡充等、我が国の社会福祉は大きな変化の渦中にある。行政処分の措置制度から利用者主体の契約的選択的制度への移行をめざす中で社会福祉の運営上の地方分権化、民営化、住民参加が切り札とされている。しかし、実際には福祉サービスの基盤は不十分で、専門職員は不足し、国民の福祉意識も高まっていない。どのような方向と方法で新しい社会福祉体制を構築できるのか。国内の事例を取り上げながら検討していきたい。松村祥子松村祥子

9 地域環境と社会福祉住民が享受する社会福祉の質にとって、福祉インフラとしての地域環境が果たす役割は大きい。乳幼児期から青年期、壮年期を経て老年期に至るまで、それぞれのライフステージにおける住まいから地域、さらに広域的な生活行動圏域内の点的、線的、面的インフラのあり方を、各国の事例を紹介しながら考えてみたい。キーワードは「自立」「参画」「予防」などである。外山義外山義

10 在宅福祉と施設福祉我が国では介護保険が導入され、在宅での居住継続を支える仕組みの普及、強化が急がれている。「住み慣れた住まい、地域で暮らし続けたい」という願いは万人のものであるが、現実には８割を大きく越える日本人が施設において人生を閉じている。人生の最終ステージの生活の場として施設をも視野に入れざるを得ない状況の中で、在宅における生活と施設における生活の極端な落差によって、みすみす高齢者の残存能力が失われ、生命力が萎んでしまうという問題は、スウェーデンをはじめとする他の高齢化先行社会も経験してきたテーマである。そうした国々に学びながら、今後の施設ケアの在り方、さらには在宅福祉と施設福祉のあるべき関係を展望してみたい。同上同上 - 3 - 回テーマ内容執筆担当講師名 (所属･職名) 放送担当講師名 (所属･職名)

11 医療と福祉の連携すべての人の「健康で文化的な生活」を目的にする社会福祉活動にとって、医療保健の充実は基礎的条件である、また、病気の予防、早期回復、慢性病管理のためには適正な医療と社会福祉の連携が不可欠である。人々の生活の中では車の両輪ともいえる医療と福祉が縦割り行政や関連職間の連携不足のために、サービスの欠落、重複、過剰等の種々の問題を発生させている。何故連携が必要なのか、どのような形の連携が望ましいのかについてアメリカと日本の事例を参考にして述べる。平山尚平山尚

12 社会福祉の専門職日本を含め欧米諸国のように高度に発達した社会にとって、高度の知識と技術の備わった有能なソーシャル・ワーカー（社会福祉専門職者）を養成することは急務を要することである。しかし、日本は欧米諸国と比較をするとソーシャル・ワーカーの養成に質と量の両面で遅れをとってしまっている。ソーシャル・ワーカーの業務とは何か、ソーシャル・ワークの知識、技術とは何か、また、ソーシャル・ワーカーの訓練はどのように行わなければならないかを日本とアメリカの事例を見ながら学ぶ。同上同上

13 社会福祉の多元化と市場化近年の（日本を含む）先進諸国における社会福祉政策の展開の一つの特徴として、サービス供給における民間営利・非営利部門の比重を高める「多元化」と、サービス供給に市場メカニズムを導入する「市場化」の進展をあげることができる。この講義では、1990 年代初頭に多元化・市場化に向けての制度改革を実施したイギリスの例も紹介しながら、多元化と市場化についてどのような観点から分析し、評価していけばよいのかを考えてみたい。平岡公一平岡公一

14 アジア太平洋地域の障害を持つ当事者運動 1981 年の国際障害者年および国連障害者の10 年（1983 年 ―1992 年）を境に、障害者の当事者国際団体が結成され、国連の政策決定の場での障害者の影響力が増大した。1993 年から始まったアジア太平洋障害者の10 年は、障害当事者団体のイニシャティブにより域内の政府に働きかけて実現されたと言われている。障害当事者団体には、障害種別の組織と、障害の種別を超えた団体に大別される。また、農村の十数人で構成される自助団体から、全国の障害者を網羅した団体まで、さまざまな規模で存在する。これらの当事者団体の国の政策決定への影響力は確実に増大している。アジア太平洋地域の障害当事者団体の結成の過程および目的、権利擁護運動、独自のサービス提供、メンバーのエンパワメント、域内のネットワーク作りなど数カ国の実例を紹介しながら、障害当事者運動の意義を明らかにしていきたい。高嶺豊高嶺豊

15 今後の社会福祉の課題公助、共助、自助のそれぞれの機能の充実と効果的な連携によって拡大する生活問題を緩和し、安心社会を築くことが多くの国で目標とされている。世界各国でこれからの社会福祉発展の鍵となるNPO（非営利組織）の活動等を取り上げながら、国際社会と我が国の社会福祉の今後の課題を示したい。松村祥子松村祥子