HOME  = 文化人類学(‘04)=( TV 〔主任講師: 江渕一公(放送大学教授) 〕 〔主任講師: 松園万亀雄(国立民族学博物館館長) 〕

全体のねらい 文化人類学は、しばしば「未開社会」と呼ばれた非西洋社会の伝統文化を研究することを通して西洋的な知 の体系に対する懐疑と批判を提示してきた。その意味では、既成の西洋科学に対する「批判知」の先駆けと して一定の役割を果たしてきたといえる。しかし今日、この学問が関わる社会文化的環境は劇的に変化しつ つあり、新しい知の体系としての再構築が文化人類学には求められている。その1つの方向は、文化人類学 を単に「批判知」の体系としてだけでなく、生活環境の変化の中で人間と社会が直面している課題を実践的 に解決しようとする、人類共有の「実践知」の体系として再編することであろう。この授業では、そうした 問題意識と視座から、人生の生き方、医療と生命倫理、開発と環境、越境と民族紛争、観光産業と文化の商 品化の問題など、21 世紀の現代的な諸問題を文化人類学がどのように把握し、またそれらの解決にどのよう に貢献できるのか、フィールドワークの現場からの報告を中心に検討する。

回テーマ内容 執筆担当 講師名 (所属・職名) 放送担当 講師名 (所属・職名)


文化人類学はどこ からきたのか〜プ ロローグ〜 19 世紀の進化主義、伝播主義理論に始まり、構造・機能主 義人類学を経て、構造主義人類学、象徴主義人類学など、新 しいパラダイムの展開を経て、今日のポストモダン人類学に 至る文化人類学の発展の歴史を振り返りながら、文化人類学 のねらいと学問的特質、研究の視角と方法、応用人類学の諸 分野、人類学と隣接科学の関係について概説するとともに、 とくに今期の授業がめざす「実践知」の体系としての文化人 類学の課題について述べる。 江渕一公 (放送大学教 授) 江渕一公 (放送大学教 授)
文化人類学とは 人類学の一部    
     
スペンサーの曲解    
  社会的進化論の信奉者 後に「単系」とされ批判された。
    ボアズ
進化は古来の人も問いをあたており、それぞれ創世神話をもっている起源論をもつ
    社会的ダーウィニズムを批判した。
文化相対主義 ベネディクト ミード
  菊と刀 フェミニズム
フレーザー 1911年(全13巻)    
イギリスは進化的社会論をのこしながらも進歩し「金枝篇」は出色のできであった。 フィールドワーク  
マリノフスキー マリノフスキー著作  
     
ラドクリフ=ブラウン    
西欧文明を相対的に批判したことがこの学問の最大の功績
     
新しい文化人類学 レヴィ=ストロース  
ニューエスノグラフィー カルチュラル スタディーズ    
トーテミズミ社会人類学解釈    
構造人類学は伝統的は社会人類学と対立

→象徴人類学を生む

人間と自然のあいだには特別の親縁関係があると考える。わしの祖先とかを表現する 構造的に捕らえると、対立構造を見た。無意識の構造がトーテミズミをワシをつくった  
    ギアツ
     

2 家族計画の普及と 地域文化 ほとんどの発展途上国で、人口増加が大きな社会問題にな っている。海外からの経済、医療援助を受けながら多くの国 が家族計画の普及に取り組んでいる。けれども国内には多様 な民族と文化が存在していて、避妊に対する態度も一様では ない。この章では、ケニアのひとつの農耕民族を事例にして 、多産願望の文化的背景や、避妊の普及を妨げている地域特 有の人間関係のありかたを明らかにし、現在の家族計画推進 運動に対する改善策を考えたい。 松園万亀雄 (国立民族学 博物館館長) 松園万亀雄 (国立民族学 博物館館長)
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     

3 人生儀礼の人類学 〜人間の一生と 文化〜 人生には思春期の反抗、老齢化、死という大きな危機があ る。人生をいくつかの明確な段階に分け、各段階に劇的に移 行する通過儀礼によって人生の危機に対処する集合的な知恵 を多くの共同体は備えていた。ケニアのキプシギスでは、若 者の反抗は成年式の成り代わりの理論を媒介に社会建設の 力に昇華される。また老人は、祖霊に近い存在として、体力 の衰えに逆比例して霊的な力を増す。工業化社会では個々人 が人生の危機に向き合っている。 小馬徹 (神奈川大学 教授) 小馬徹 (神奈川大学 教授)
4 加齢と老人の人類 学〜 自立した老 後を生きる〜 高齢者というと、疾病の治療や介護に係る社会的・経済的負 担の問題が注目されがちだが、本章では、アメリカや日本の 事例に基づいて、高齢者自らが生きがいを求めて、積極的に 生きる姿と、そこに見られる文化的多様性を検討する。また 、情報技術の発達、生涯教育の促進、「健康日本21」政策に見 られるような、健康を増進し、疾病の発病を予防し、健康寿 命の延伸する試みが、老後の生活にどのような変化をもたら しているのかを検討する。 藤田真理子 (広島大学教 授) 藤田真理子 (広島大学教 授)
5 病いの人類学〜 やまい・治療・身 体観〜 古来、痛みや不調への対応は、身体の諸部分の治療に留ま らず、環境や周囲の人々との関係性、心身の連関を調整する 試みに満ちており、病の構造や身体観を表出する文化を構成 してきた。本章では、タイ王国の民俗療法などを事例として 、それがいかなる悩みに応えようとしているのかを検討する 。社会関係、ライフサイクルの新たな問題に挑戦する民俗療 法者の試みから、激動する時代の生活の質(quality of life)に関しても考察したい。 鈴木七美 (京都文教大 学助教授) 鈴木七美 (京都文教大 学助教授)
6 開発と環境の人類 学〜共生と持続 性をめぐって〜 開発により環境が大きく影響を受けるのは、日本では高度 経済成長期以降であり、発展途上国では開発独裁体制下のこ とである。屋久島では世界遺産指定を契機に開発礼賛は影を 潜めたが、新手の開発論が人々の言説に見られる。また、ア ブラヤシ栽培の拡大を熱帯林伐採と先進国での自然志向との 関連で捉え、インドネシアのスハルト政権時代の開発移民政 策、土地問題、煙害の問題点の関連性を検討し、自然との共 生、持続的経済の可能性を考える。 中島成久 (法政大学教 授) 中島成久 (法政大学教 授)
7 国家と民族〜 多文化のなかの自 己認識〜 国家も民族(nation)も西欧が生み出した近代市民社会の理念 である。だが、今や欧州はそれらをこえて統合されつつある 。一方。アフリカ諸国はまだ国民(nation)統合を果たせずに 苦しんでいる。従来アフリカでは、人は或る人間集団に属す と共に他の何者かでもあるという多重な自己意識を持って いた。植民地化がもたらした国家と民族の理念が、アフリカ の人々の自己意識と自他関係に与えた複雑な亀裂とその影 響を西ケニアを例に考える。 小馬徹小馬徹
     
     
     

8 現代の民族紛争〜 新たなる戦争のか たち〜 20世紀の末から21世紀初頭にかけての現代世界では、各地 で民族紛争、宗教紛争、地域紛争、内戦などと呼ばれる武力 紛争が頻発している。これらは、正規の軍隊同士が戦う国家 対国家の戦争とは異なる「新たなる戦争」である。こうした 戦争を理解するには、冷戦の終結、グローバル化、国民国家 のゆらぎといった大状況を踏まえつつ、地域の特殊事情に注 目し、民族や宗教を基盤にした紛争の主体が生成してくる過 程を考察する作業が不可欠である。この作業は、文化人類学 的な課題として「新たなる戦争」を考える試みである。 栗本英世 (大阪大学大 学院助教授) 栗本英世 (大阪大学大 学院助教授)

   
     
     

9 越境の人類学〜 難民の生活世界〜 世界各地における武力紛争は、約5000万人という大量の難 民を生み出している。その悲惨な姿はマスメディアで報道さ れ、難民の保護は国際社会の課題となっている。しかし、難 民キャンプとはいかなる空間なのか、そこで個々の難民がい かに生きているのかといった問題に関する私たちの理解は きわめて限られたものである。本章では、移民やディアスポ ラなどの現象と対比させつつ、コミュニティの再構築、文化 の継承と断絶、援助機関との関係といった諸問題に注目して 難民の生活世界を考察する。 同上 同上
 
     

10 先住民運動の人類 学〜 エスニシテ ィと近代国家〜 コロニアリズム崩壊後、多くの新興独立国家が誕生したが 、近代国家への編入と統合に困難を見出す先住民諸民族が少 なくない。ここでは、カナダ、アメリカ、オーストラリアな どの多民族国家における近年の先住民運動展開の事例に基づ いて、伝統文化の維持基盤としての自然・土地に対する権利 の保障・回復を求める政治運動と独自文化を追求する文化運 動の関係に焦点を合わせ、新段階を迎えた先住民族と国家の 関係について考察する。 江渕一公 江渕一公 2003/11/15 1655710.doc 3 回テーマ内容 執筆担当 講師名 (所属・職名) 放送担当 講師名 (所属・職名)
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癒しの人類学 〜こころ・からだ・ 自然〜 最近「癒し」という言葉が氾濫しているが、「癒し」の希 求は自らの生に関する欠乏感や欲望(want)の表現でもあり、「 癒し」文化は、生活様式(the way of life)の模索と選択に 深く関連しているといえよう。本章では、多様な癒しの試み をとりあげ、「癒し」の文化的拡がり、社会的歴史的規定性 とその変動に関し検討する。新医療技術に関する議論も参照 しつつ、新たな選択肢が提示される時代の欲望の行方と問題 点、およびその可能性について考察する。 鈴木七美 鈴木七美
12 表出的文化の人類 学〜芸術・祝祭・ス ポーツ〜 用具的文化と対立する意味での表出的文化の諸側面(身体 装飾や美術工芸などの視覚的芸術、神話・伝説・民話の語り 、音楽・舞踊・演劇、祭礼、スポーツなどの上演芸術・競技 芸術など)を文化人類学的視点から検討し、社会の諸制度と 文化的諸価値の維持・強化・挑戦の表象装置としての表出的 文化の構造的・機能的特質について考察するとともに、表出 的文化が「民族の伝統」として伝達継承されるメカニズム及 び伝統的文化から革新的文化が生成されるメカニズムを民俗 ・歴史・伝統・革新の4つのキーワードを用いて明らかにす る。 江渕一公 江渕一公
13 地域開発と観光開 発の人類学〜もう 一つのツーリズム 〜 北米(アメリカ・カナダ)やオーストラリアの先住民社会 の事例から出発し、主に日本の都市・農村の事例に基づいて 、地域の景観や森林の保全、伝統産業、祭礼やふるさと民俗 、フォーク・アートやエスニック・アートなどの「地域文化 の掘り起こし」と観光開発との関係を、とくに「もう一つの ツーリズム」に焦点を当てて検討し、観光資源開発を通して の地域活性化及び「文化の商品化」現象をめぐる諸問題を中 心に、開発人類学・環境人類学・観光人類学の交接領域にお ける現代文化人類学の課題について考察する。 同上 同上
14 民族誌展示の現在 〜 「実践知」とし ての博物館人類学 の可能性〜 今、民族誌展示に従事する博物館にあらためて熱い視線が 注がれている。これまで展示の対象となってきた非西洋の諸 民族による、自己の文化や歴史の再評価の動きのなかで、博 物館の存在が、西洋と非西洋との関係性の証として、また文 化的アイデンティティーの形成の装置として、注目されてき たからである。そうした流れをうけて、博物館のあいだでは 、現在、さまざまな試みが展開されつつある。本章では、民 族誌展示をめぐる近年の取り組みを検討し、博物館の新たな 可能性を探る。 吉田憲司 (国立民族学 博物館教授) 吉田憲司 (国立民族学 博物館教授)
15 文化人類学はどこ へ行くのか 〜エピローグ〜 文化人類学の主要な方法とはなにか。文化人類学者の多く が、まちがいなく「フィールドワークだ」と答えるだろう。 しかし、「フィールドワーク」のやりかたはこの数十年間で 随分と変わってきた。グローバリゼーションのために異文化 との距離が大幅に短縮化され、女性研究者が激増し、現地の 社会が予想を上回るスピードで激変している。文化人類学が 「実践知」の体系として再出発するにはどうすればよのか。 フィールドワークをキーワードにして、文化人類学の将来像 を描いてみたい。 松園万亀雄 松園万亀雄