過去は消えない
翌日、餓死寸前だった囚人の一人が倉庫からジャガイモを盗んだ。当局は犯人を引き渡すように命じ、さもなければ全員に一日の絶食を課すといってきた。
囚人たちは、仲間を絞首刑にするよりはと、一日の絶食を選んだ。
これらは単なる美談ではない。真善美にいきることが、ロゴスを覚醒させ、過酷な状況でも生命にエネルギーを与え生きていけるのだった。
他の人も理解こそしていないが、魂は答えをしっているかのようだ。
その日の夕方、みんなが不機嫌でイライラしていた。さらに悪いことに停電となり、部屋は真っ暗闇になってしまったのである。囚人たちの怒りは爆発寸前になった。
その時バラックの代表が口を開き、最近自殺した仲間について話し、そうした自己放棄を防ぐにはどうすればいいか、私の意見を聞きたいと指名してきたのだ。
私は寒さに震え、餓え、ぐったりし、イライラしてそんな気分ではなかったが、今こそ精神的な援助が必要とされているのだと思って跳ね起き、自分の考えを力説した。
「私は、今の状態はそんなに最悪といういうことでもないと思っています。真に大事なものは、それほど失われていないからです。健康、家庭の幸福、職業、財産、社会的地位といったものは、取り戻そうと思えは、決してできないわけでもありまえん。
たしかにこの収容所から生きてでることは5%ぐらいかもしてない。だからといって希望を捨てる必要は決してない。未来はどうなるか、一瞬先はわからないのです。
例え、未来が分からなくても、。我々が過去において果たした豊かな経験は、何者も、何人も、奪い取ることはできない。過去の中で、業績は永遠に確保されてます。過去は消え去ったのはなく、別次元の中で保存された形で、”存在している”のです。
人生はいかなる状況でも、それ自体で意味をもっています。でも、その意味の中には、苦悩も自分の死も含まれています。すなわち、苦悩すること、死ぬことは、決して無意味どころか、人生を意味あるものにするのです。」
フランクは闇の中であつく語りかけた。
「我々の生への戦いは、なるほど絶望的かもしれない。だからといって、その戦いの意味や尊厳を少しも傷つけるものではない。困難な状況にある我々、また、近づきつつある最後の時を迎える我々を誰かがみている。友が、妻が、例え生きていなくても彼らは存在し、見ている。そしてロゴスが見ている。その者は我々がどう生きるか期待しているのだ。我々の生きざまをみて失望しないことを。我々が哀れに苦しまないで、誇らしげに苦しみ、そして誇りの中で死んでいくことを」
まもなくバラックに明かりが灯った。
目に涙を浮かべ、感謝をいうために近寄ってくる仲間の姿を私はみた。