老医師

次に入ってきたのは、老医師だった。



老医師:私は癌の専門医です。しかし、今では、自分が末期癌にたってしまいました。いままでしていた仕事ができなくなるのが何よりも苦しい。
フランク:あなたが何時間はたらこうが、たいしたことではない。誰でもできることです。でも、働きたいけど、働けない、でも絶望しないというのは、そう簡単にできることではありませんよ。
老医師:自分を誇れと?
フランク:医師として何人も末期の人に接してきましたか?
老医師:ええ、仕事ですから。
フランク:では、その人にあなたはもうすぐ死ぬのだから意味がないといいますか?
あなたが今まで接して来た患者に絶望を与えるだけですよ。
老医師:最後まで私がしっかりすることが、他の患者の支えにもなる・・・
フランク:これまで以上の最高のケアになるでしょうね。すでに亡くなった患者もあなたの観客です。実際に障害を乗り越えるかは問題ではありません。

その障害にどう敢然と立ち向かったか、内的な凛々しさだけが、自分を支えるでしょう。
 

フランクの言葉には、教義も信奉もない、内的な自覚を促すだけだった。

老医師:結末の問題じゃないってことか・・・自分のことだけ考えて生きていけるほど、人間は強くないんだな。

老医師は、その場で病院に電話をすると、看護婦に矢継ぎ早に指示をすると。

「こうしてはおれん」足早に店を去って行った。


 

 

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