パンドラとは、ギリシア神話に登場する人物で、神々が作った最初の人間の女性です。

そもそも多種の説がひしめくギリシア神話において、人類の誕生については定説がないのが本当のところです。
一般には、原初の神々と同じように母なる大地ガイアから誕生したという説や、ゼウスが造ったという説、また、プロメテウスが土をこねて形を作り、アテナが生命を吹き込んだという説、などがありますが、一番有名なのは古代ギリシア文学に登場する叙事詩人ヘシオドスの作品「仕事と日々」に書かれている内容のものであり、それには人間はクロノスの時代のオリュンポスの神々が造ったとあります。

しかし人類の創世記が何にしろ、この時期にはまだ「女性」という人間種族は存在しませんでした。

その昔、天空を支配していた父クロノスを討ち、王の座を取って代わったその息子ゼウスは、その後もあらゆる神々との戦にも勝利し、オリュンポスの最高神ゼウスとして、永きにわたり天地を統括していくことになります。

しかしこの頃には、地上に住む人間たちの心は神格ある崇高さが次第に薄れ、邪悪で傲慢になってきており、ゼウスもこの人間たちには愛想がつき、何とか罰を与えて懲らしめてやらねば、と密かに機会を伺っていました。

そこにプロメテウスという神が登場します。
プロメテウスは、元々はゼウスと敵対関係だった神々ティターン族の息子でありながら、その神々の戦争では慎重に中立を守り、ゼウス側が勝利と見るや、その優れた知恵を発揮し、ゼウスと交渉して堂々オリュンポスの神々の仲間入りを果たしました。
このプロメテウスはまた、知性の神と同時に人類の恩人としても知られています。

あるとき、人間と神々の間で祭儀に関する協議が行われました。
供えられた牛の分配をどうするかというものです。
これにプロメテウスが判事をかって出ました。
人間想いのプロメテウスはゼウスに一杯喰わせてやろうと、ここである細工をしたのです。
牛をばらして、一方の皿には美味しい肉と栄養たっぷりの臓物を汚らしい皮で包んでいかにもまずそうに盛り付け、もう一方の皿にはただの骨をキラキラ光る脂身で包みいかにも美味しそうに盛りつけたのです。
そしてゼウスに先に好きな方を選ぶよう勧めました。残った方を人間に与えるのです。
プロメテウスの企みは成功し、ゼウスは見た目美味しそうな皿の方を選びました。
ゼウスは脂身の中身がただの骨だとわかって激怒。
プロメテウスと人間に重い罰を与えることを決心したのです。

ゼウスはまず人間から火を取り上げてしまいました。
火を使うことができなくなった人間たちは、牛の肉を焼くことも寒い日に暖をとることも明かりを灯すこともできず、暗闇の中で野獣に恐れおののきながら暮らさなければなりません。
これを見てプロメテウスも黙ってはいませんでした。
ゼウスの目を盗み天上に昇って、太陽神の炎の車輪から松明に火を移し、こっそり地上へと持ち帰ったのです。
これを知ったゼウスはまたまた激怒。
権力の神クラトスと暴力の神ビアに命じ、プロメテウスを山の峰にはりつけさせ、さらに鍛冶の神ヘパイストスに命じ、切れない鎖で縛り上げ、抜けない杭を体に突き刺し、さらにマムシの女精エキドナと怪物テュポンの子である一羽の大鷲に彼の肝臓を啄ませました。
しかもプロメテウスは不死の体を持つ神であるため、いくら鷲に体を喰われても一夜にして治ってしまい、永延と(一説には3千年とも3万年といわれる)その苦しみに耐えなければならないのでした。
しかしそれでも彼は屈服することなくゼウスに敵対し続けたといいます。
やがて彼は後に登場するギリシア神話一の英雄ヘラクレスによって助け出されます。

一方ゼウスは人間へのさらなる罰も忘れてはいません。
ゼウスは鍛冶の神ヘパイストスに命じ、粘土を水でこねて女神にも劣らない美しい乙女を作らせました。
そしてこれに戦いの女神アテナが美しい衣装を装わせ、美の女神アフロディテが欲望をひきおこすような優美さを与え、商人の神ヘルメスが恥知らずな心と不実な口を与えました。
そしてゼウスはこの女性に「パンドラ」(すべての神からの贈り物という意味)と名付け、プロメテウスの弟、エピメテウスのもとに贈りました。
この女性こそ人間に災いをもたらす為に神がつくった人間最初の女性だったのです。

エピメテウスは兄から「これはゼウスの企みだ。受け取ってはならない」と忠告されていたにもかかわらず、欲望に負け、この美しい女性を受け入れてしまいました。
またパンドラは地上にくるときに一つの贈り物を持たされていました。
それは神々からの贈り物がいっぱいに詰まった箱(本来の物語では壺だったらしい)でした。
その箱は開けることを許されていなかったのですが、パンドラは怖いもの見たさからかある日ついに開けてしまったのです。するとその中から、暗い影のようなものが一斉に飛び出しました。
それは今のこの世に存在する、ありとあらゆる災いや不幸、病気、悪などでした。
パンドラは恐くなってすぐにふたを閉めたのですが時すでに遅し。
しかし、箱から飛び出さずにひとつだけ残ったものがありました。それが「希望」だったのです。
これも実はゼウスの計らいだったといいます。

そしてこの後、プロメテウスの息子デウカリオンと、エピメテウスとパンドラの娘ピュラが登場します。
デウカリオンはピュラと結婚し、父プロメテウスの警告のもと、箱船を作って乗り込みました。
というのも人間たちの悪行に業を煮やしたゼウスが人類を滅ぼす為、大洪水を起こそうとしていたからです。プロメテウスは事前にそれを察知し息子たちに宣告したのでした。
そしてゼウスは自分の兄である海神ポセイドンの力を借りてその計画を実行しました。
大洪水が世界中を襲い、あらゆる物が水の中に沈んでしまいました。
その中で箱船に乗って難を逃れていた二人だけが助かったのです。

二人はやがてパルナッソス山の山頂に流れ着き、神への信仰心が厚かった彼らはそこでゼウス神に祈りを捧げました。
すると元々この二人に愛着を感じていたゼウスは怒りをおさめ、雨雲をかき消し、またポセイドンの子であるトリトンが海面に出てホラ貝を吹き鳴らせば、みるみるうちに水が引いていきました。
それでも自分たち以外の人間が滅んだことに嘆き悲しんだデウカリオンとピュラは、ゼウスに人類の再生を強く願いました。
ゼウスはこれを受け入れ、デウカリオンが足下の石を拾って後ろに投げると、その石が人間の男性に、同じようにピュラが投げた石が女性に変わりました。
ギリシア神話では彼らが事実上の現代人類の祖先とされているようです。

こうしてみるとギリシア神話は旧約聖書の物語と一部似ているところがあるのです。
パンドラの箱はアダムとイヴの禁断の果実に、大洪水の話はノアの箱船に。
実に神秘的で不思議な世界ですよ、神話というのは。

http://www.box-j.com/whatpandora/whatspan.htm
[トゥームレイダー2]
Lara Croft Tomb Raider : The Cradle of Life
2003年9月20日より日劇1他・全国東宝洋画系にてロードショー

監督:ヤン・デ・ボン/出演:アンジェリーナ・ジョリー、ジェラルド・バトラー、シアラン・ハインズ、ジャイモン・ハンスゥ、ノア・テイラー、クリストファー・バリー、ティル・シュバイガー、サイモン・ヤム、テレンス・インほか
(2003年/アメリカ/1時間57分/配給:東宝東和)

→アンジェリーナ・ジョリー&ヤン・デ・ボン監督来日記者会見レポート!

∵公式サイト



【STORY】
ギリシャ・サントニーニ島沖。地震によって海底に埋もれていた遺跡が見つかりそうだという情報がトレジャー・ハンター達を呼び寄せる。アレクサンダー大王が世界中から集めた財宝の中で、特に重要なものを隠したと伝えられる「月の神殿」が2300年ぶりに海底に姿を現わしたらしいのだ。我らがララ・クロフト(アンジェリーナ・ジョリー)も、気のいいギリシャ人親子と共に現地へ。海流の変動データの分析で、「月の神殿」に一番乗りした彼女だったが、そこで真の秘宝のありかを示した黄金の珠を半分撮影したところで何者かの襲撃を受け、その珠を奪われてしまう。仲間も殺され、船の破片につかまって3日間漂流したララは、執事ヒラリー(クリストファー・バリー)とプライス(ノア・テイラー)に救助されて英国バッキンガムシャーに戻るが、犠牲の多さに怒りが納まらないでいた。そこに英国情報部MI6が女王陛下の依頼を携えて訪問。珠を奪った黒幕がノーベル賞を受賞した生化学の権威ジョナサン・ライス博士(シアラン・ハインズ)であり、古代の細菌兵器を手に入れて各国に売ろうとしていることが判明したのだ。その細菌こそ、珠に示された秘密の場所「生命の揺りかご」に隠された秘宝「パンドラの箱」に残されたものだった。ララは奪われた珠を取り戻すため、カザフスタンの刑務所に収監中の傭兵テリー・シェリダン(ジェラルド・バトラー)をガイドとして雇う。彼はライス博士と組んだ東洋マフィア、チェン・ロー(サイモン・ヤム)一味に詳しかったからだが、MI6は「英国海兵隊の裏切り者だ」と懸念の色を隠せない。ララの元恋人だったらしいのだが……。中国奥地、上海、香港と死闘を繰り広げながら珠を追う二人は、ついに珠を奪取。その解読に成功したララはアフリカの某所、人類の起源でもある「生命の揺りかご」へと飛ぶ……。

【REVIEW】
アンジェリーナ・ジョリー主演、「女性版インディ・ジョーンズ」ララ・クロフトの冒険活劇映画、第2弾の登場である。前作は室内活劇(あとセット内活劇やらCGやら)が多かった印象があるんだけど、今回はアウトドアなアクションもテンコ盛り! 水上スキーに始まって、馬上射撃、新型軍用機での中国奥地潜入、万里の長城でのバイク・アクションに敵アジトの岩壁からのロープ急降下、さらに香港の高層ビルからのダイブやらサバンナでのパラセイリング……と、意味無しとも思えるくらいエクストリーム系スポーツを取り入れてあるから、ロケ撮影ならではの開放感あり。他にも銃剣を使った殺陣が面白い兵馬俑での対決やフラワー・パゴダ広場の中華風西部劇、ガラスが割れまくる敵の研究所内での死闘など、やたら飛ぶし跳ねるしってなアクションが見どころひとつだろう。体を張ったアンジョリの頑張りに拍手、かな。ただストーリー展開は何というか微妙に感情がこもらない気分なのが辛い。それでもクライマックスまでは手かえ品かえ矢継ぎ早なアクションでクイクイと魅せるのだが、アフリカ現地の部族が「神の山」と呼ぶ聖域に入ってからがちょっと……「影の戦士達の谷」あたりはサム・ライミ『死霊のはらわた2/3』のB級ホラー・テイストもあって許せるとしても、やはり原題の副題にもなってる「生命の揺りかご」=地球生命の故郷となった場所ってのには、そのディテール描写につい過剰な期待をし過ぎてしまうではないか。映画の出だしがリュック・ベッソンとかも得意な「海上を滑る」カメラ映像で、それがギリシャの切り立った崖の頂上での結婚式風景に繋がるってシークエンスの素晴らしさがあって、しかもパラマウント・ロゴが波間に見え隠れしたり、地震で崩れた巨岩の群れが海中から捉えられてタイトルになるってな冒頭の遊びの派手な感じを、できれば最後まで持続して欲しかったなぁ……。ま、前作よりも綺麗になった(ように撮られてる)アンジョリの姿にただ見とれるってのが正しい観方なのかも。監督は『スピード』『ツイスター』『ホーンティング』のヤン・デ・ボンである。

ちなみにギリシア神話の「パンドラの箱」って、あらゆる災厄が詰め込まれた箱で、それが解放されたことでヒトが病苦に襲われるようになって、でも最後に箱に残ってたのが「希望」だった……ってなオチだったはず。それを受けて「悲劇の後の微かな希望」って構造を利用した教訓物語やSFなどが無数に生まれたんだけど、この映画の「再解釈」ってのは結構大胆で珍しいかも。その捻った発想をもっと突き詰めてみると面白い別の話ができるかもしれん。映画はオカルトなのかリアルなのか妙にどっちつかずな印象(アレクサンダー大王の時代にヒトの手によって隠された仕掛けのはずなのに……)なのが惜しい。

Text:梶浦秀麿

「希望は混沌より生ず」
パンドラの箱も、混沌を振りまいたけど最後には希望が出てくる。