ルーシーの膝

 
  • ルーシーの膝 人類進化のシナリオ
    (イヴ・コパン(Yves Coppens) 著 馬場悠男・奈良貴史 訳 紀伊國屋書店 2000円 ISBN 4-314-00910-1 原題:Le Genou de Lucy, 1999)

     

  • 320万年前のアファール猿人(アウストラルピテクス・アファレンシス)「ルーシー」の人骨を発見した国際研究調査隊を率いた古人類学者による人類進化の概説書兼、半生記。一時期ルーシーは初期ヒト属の祖先だとされたが、現在リーキーや著者らは、アファレンシスは直接のヒト属祖先ではなく、アウストラロピテクス類全体の祖先であると考えているという。

    本文の前に訳者二人による<解説>がついている。人類進化に関する本を読む際にどうしてもひっかかる、人類種の名前や分類、おおざっぱな歴史が解説されていて、非常に有り難い。なにせ化石の解釈がしょっちゅう変わる業界なので、読むこちらは、現在、主流の学説がどれなのかすらいまいち分かりづらいのが正直なところ。また発見が続く業界でもあり、研究者たち自身にも、いつ重要な化石が発見され、人類進化の系統樹がどう変わるか分からないという。というわけで、この解説だけでも目を通す価値がある。

    というわけで、まえがきから借りて人類進化の歴史をおさらいしておこう。なお実際の本書には図がついているので、本を読んでもらったほうがいいことは言うまでもない。

    さて、まず一番重要なことは、人類進化は「猿人→原人→旧人→新人」と段階的に進んできたわけではないということである。現在の認識では、実際には多種多様な人類種に分岐し、分散し、多くが絶滅した結果として、今日のホモ・サピエンス・サピエンスがあるのだということになっている。

    その間には三回の大きな分岐・放散があったという。
    第一は600〜500万年前。前人類(猿人)が誕生した。直立二足歩行をしていたが、脳は類人猿と同じくらい小野400立方センチメートル程度。少なくとも5つ以上の属(オルロリン、アルディピテクス、アウストラロピテクス、パラントロプス、ケニアントロプス)があり、さらにそれぞれに5つ以上の種があったらしい。

    第二は300〜200万年前。アウストラルピテクスの一種から、いわゆる原人と旧人に対応する初期のヒト属(ホモ属)が誕生した。だいぶ足が伸び、脳容積が600-800立方センチメートルへと拡大した。アフリカ、ユーラシアへと拡散していった。ヒト属は8種を含む(ルドルフェンシス、ハビリス、エルガステル、エレクトゥス、アンテセソール、ハイデルベルゲンシス、ネアンデルターレンシス、サピエンス)。

    第三は20〜15万年前。アフリカでホモ・サピエンスが誕生し、世界中に急激に放散していった。

    だいたいこのように考えられているという。著者のコパンは、1975年にエチオピアのオモ川の堆積層の化石を分析し、300万年前から気候の乾燥化が進み、それを多用な食物を獲るという戦略で乗り切ることでヒト属が誕生したという仮説を提唱した。この乾燥化を「オモ事件」と呼んだのだが、最初は受け入れられなかったという。だがやがて多くの研究によって支持されるようになり、ヒト属誕生に気候乾燥化が影響していたと認識されるに至った。

    また、アウストラロピテクス類が誕生した理由、ゴリラたちと人間とが別れるに至った理由を、アフリカ大地溝帯の東側の気候が乾燥し、森林が草原へと変わったからだという仮説を1982年に発表した。「イーストサイド・ストーリー」と名付けられた仮説はマスコミでも大きく扱われた。この仮説には東大の諏訪元らによる反論もあるが、それなりにエポックメイキングなものとなった。

    その他いくつかポイントがあるのだが、あとは本を読んでもらいたい。

    有名なルーシーだが、身長1.1〜1.2m程度、体重は20〜25kg程度、脳湯関は400立方センチメートル未満といったことは、意外とイメージされてないのではないだろうか。ルーシーは腕も随分長い(というか足が短い)。要するに直立はしていても、「サル」だと思ったほうがイメージとしては合っているのだ。その辺を発見者自らの筆で確認できるのが楽しい。

     


     

     


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