影の光子

デイヴィット・ドイッチュ

「光の干渉縞」の実験をしっているだろうか?200年以上も昔からこの現象は観測されていた。

しかし、近年デイビット・ドイッチェが全くあたらしい説明をした。

 

プラトテレス>まず二枚の壁を用意して、矢印のところに切れ目(スリット)を1ついれて、その隙間から光をあてて観るとしよう。

 

プラトテレス>奥の壁には、なにが映るかな?

ソフィー>光がスリットを通り抜けて、そこだけ白い筋ができる。

プラトテレス>そのとおり。その時の、奥の壁には、1本の光の縞が映る。グレーのところは半影、黒は本影だ。

 

プラトテレス>では、スリットを1本から2本に増やしたとしよう。その時の奥の壁には?

ソフィー>2本の光の縞が映るんでしょ?

 

プラトテレス>はずれだ。光と影の縞模様に映る。

ソフィー>不思議だわ。

プラトテレス>それだけじゃない、スリットを4本に増やすと光の縞は半減してしまう。

ソフィー>一本交互に消えてしまっている・・・。教えてどうしてこうなるの?

プラトテレス>これが光の干渉だ。光はお互いにある場所では強めあい、ある場所では打ち消しあってしまう。但し・・・・

ソフィー>但し・・何?まだ何かあるの?

プラトテレス>実は、ここまでは19世紀の説明だ。まだエーテルの存在が信じられて、光はエーテルをつたわる波と信じられていた時代のものだ。その後、アインシュタインによって、1905年に光は粒子であるという光子説によって粒子の可能がでてきた。

ソフィー>それじゃあ、粒子的な説明をして!

プラトテレス>まず粒子を厳密に測定する為に、光のビームそのものから干渉をなくさなきゃならない。

光のビームは光の粒子が無数に集まっているものだから、ビームの中の粒子同士が干渉してしまっていては、スリットの実験は無意味になる。

ソフィー>なるほどね。それじゃあ、光の粒子を1個だけ、照射してみればいいじゃない。

プラトテレス>そのとおり、レーザーを使えば、可能だ。さらに厳密に測る為に、それぞれのスリットにそこから出てきた粒子を1個から測定できる高性能観測器をおくことにする。

そして、さあ実験だ。2本のスリットに向けて、1個、しばらく時間をおいて、また1個と、最初の粒子が到着した後、次の1個を出してみよう。すると、数時間後には、どうなると思う?

ソフィー>今度こそ2本の縦縞になる?

プラトテレス>ところが、あらゆる干渉は排除したにも関わらず、まばらにはなるけど、干渉縞はあらわれる。

観測器の測定結果はこうだ。

 

ソフィー>光子が割れてその破片どうしが干渉したんじゃない?

プラトテレス>いいや、更にそれぞれのスリットに通過する粒子を測定する観測器を置いても、2つある観測器のうち1度に1個の通過しか観測されない。だから割れたことが原因ではない。

さらに2つのスリットを開けて、4本のスリットにした時もまばらにはなるが、壁に映る光の縞は半減するというパターンは変わらない。

どんなにまばらであってもパターンはかわらない。

ソフィー>他に粒子が存在しないのに、同じ結果になったってこと?

プラトテレス>そう、光子はスリットの一カ所を通り抜け、ついで、何かと干渉をおこすが、他のスリットが開いているか閉じているかで、光子の偏向のしかたが決定される。

ソフィー>何かって?とにかく測定器に映らなくて、光と干渉する、光子に近いモノ。

ソレが、他のスリットを通って、光子と干渉するってのはどう?

プラトテレス>その推理は全くの正解だ。その光子は「影の光子」と呼ばれている。それから見える光子を「触れる光子」と呼ばれている。

では、どこから来たのか?

ソフィー>まったく想像もできない。

プラトテレス>他の世界からきたのだよ。そして、この現象こそ他の世界が存在することの証拠となる。

エヴェレット解釈では、そう考えるんだ。他の世界のことを平行宇宙いう。そのたくさんの平行宇宙から同時にビームが照射され、それが、この宇宙の光子と干渉と引き起こすんだ。

ソフィー>同時?つまり、この宇宙にそっくり?平行宇宙がたくさんあるってこと?

 

プラトテレス>そうほとんど同じだ。すこし違っているが、せいぜい光子1個分以下の差ってところだろうね。

ソフィー>たくさんの平行宇宙ってどのぐらい数?

プラトテレス>スリットの大きさ1000分の1ミリぐらいは、開けられる。だから縦横2mもあれば、1兆個のスリットを作れる。でも1個光子を照射すると、影の光子が1兆個伴っているはずだ。まあ、そんな調子のたくさんだね。

つまり無制限。桁外れに入り組んだ世界がすぐ隣に隠れて存在する。

ソフィー>その「世界」は「宇宙」とよべる程の資質をもっているの?

プラトテレス>影の粒子があるのは、光子だけじゃない。あらゆる種類の粒子の影の粒子の存在が予測される。

どの中性子にも影の中性子が無限に伴っており、どの電子にも影の電子が無限に伴っている。

なぜならスリットを閉じたときに影の光子を止められるのは、触れる粒子では、止められないからだ。

影の粒子で作られた蓋がないと影の光子を止めることはできない。

そうした影の粒子を集合的に平行宇宙と呼んでいる。

ソフィー>それは「他の宇宙」なの?ただ単に観測できないだけで、「この宇宙の別の側面」に過ぎないんじゃない?

プラトテレス>まず我々が通常使っている「宇宙」という言葉の定義をハッキリさせよう。普通に考えるなら「物理的実在の全体」が「宇宙」だ。その意味では宇宙は一つだ。

エヴェレット解釈で初めて発見された隠れて実在する宇宙だから、今までの宇宙と区別して呼ばないと分からなくなる。光子が「触れれる光子」「影の光子」と言葉が分かれたようにね。

ソフィー>触れる宇宙と影の宇宙でもよかったのね。

プラトテレス>平行宇宙は、この宇宙からみた他の宇宙を指す言葉。そして平行宇宙とこの宇宙を含めた実在の全体の呼び方を「多宇宙」と新しい言葉も考案されている。

 

たくさんのコピーの内一つだけが「触れる」ものだという主張と除けば、「触れる」対象と「影」の対象を区別するものは何もない。しかも我々の宇宙と完全に隔てられてはいない。干渉するぐらいすぐ近くに実在する。

プラトテレス>もちろん反対の意見を唱える人もいる。偏らないように、いつも必ず反対派意見を自分の中にとりこんで置くよう。

ソフィー>カウンターパーツをそろえるのね。

 

ソフィー>ところで、別の宇宙に私のコピーが無数に実在するのなら、もっとうまく料理をつくれる私も実在する?別の私に料理を教わることはできるのかしら。

プラトテレス>ああ、別の宇宙の私が、今お茶を飲みに出かけてしまったようにね。でも別の私とおしゃべりすることは、今のところむずかしいな、光子干渉方式電話機でも作らなきゃね!

 

 

 

*更に奇妙なのは、個々の粒子は、決して同じ場所に重ならないように、まばらに当たっていることだ。

→反論: 光は粒子→アインシュタイン光子説

     光は波→シュレディンガー波動方程式

     光は粒子だが、多世界解釈によって波のように見える→エヴェレット解釈

     光は粒子と波の両方の性質をもつ→コペンハーゲン派

 

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174 世界の究極理論は存在するか 多宇宙理論から見た生命、進化、時間 デイヴィッド・ドイッチュ The Fabric of Reality David Deutsch 1997 年 (訳: 林一 1999 年) 朝日出版

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