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2005/01/13 8920141.doc 1

= 物質環境科学T(‘05) = (TV)

− 分子から機能性物質・生体まで −

〔 主 任 講 師: 濱田 嘉昭(放送大学教授) 〕

〔 主 任 講 師: 田隅 三生(埼玉大学学長) 〕

全体のねらい

物質の織り成すすべての現象は、その基礎単位を構成する物質の性質とそれらが互い

にどのように影響を

与え合っているかで決まる。化学の立場では、分子が基礎単位であり、それらの相互

作用の結果として、マ

クロの物体の存在形式と変化が理解できる。したがって、自然環境を物質レベルで考

察する場合には、分子

の性質とそれらがどのように相互作用しているかを知ることが重要である。すなわ

ち、物質の階層的な解釈、

相互作用の観点、変化の大きさと方向に関係する動的平衡の観点が重要である。ま

た、環境という言葉は,

ある系とその系の外との関係があることを前提にしているが、その内と外とを区別す

るものがあることにな

る。物質系では膜がそれに当たる。一方、膜は境界を定めるだけではなく、物質とエ

ネルギーの移動を調節

している場合が多い。これらについても考察することにする。本講義では、物質環境

を化学の視点で捉え、

解釈し、場合によると問題の解決の方法を獲得することを目的とする。ただし、現状

でさまざまに論じられ

ている環境問題を直接に取り上げるのではない。これにはまだ、原因や方法に未解決

の問題があるし、立場

の違いによる解釈や方針の違いも存在する。この講義では、それらに自然科学、特に

化学の立場から正しく

接近できるような講義を行いたいと考えている。

回 テーマ 内 容

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基礎的理解(生活と物質)


身の回りの物質と

物質循環

われわれの日常生活にどのような物質が存在するのか。ど

のようなかかわりをもっているのかを考える。衣食住を支え

る材料、生命を構成する物質、人間活動を支える材料、地球・

宇宙環境と物質、エネルギーを生み出す物質などについて整

理する。物質は存在するだけでなく、さまざまな循環の中で、

姿・形を変え、環境を維持すると同時に変化させている。自

然、生命を含み、どのような物質が、時間・空間的にどのよ

うに変化しながら循環しているかを学ぶ。

田隅 三生

(埼玉大学学

長)

濱田 嘉昭

(放送大学教

授)

田隅 三生

(埼玉大学学

長)

濱田 嘉昭

(放送大学教

授)


2

標準・基準を決める 自然科学において得られた結果を正しく伝えるためには、

自然現象を表現する言葉(物理量)が厳密に定義されている

こと、その量が精度良く決められていることが必要である。

これによって、物事を定性的・定量的に表現・伝達できるこ

とになる。ここでは,まず国際単位系(SI 単位系)について

学ぶ。なぜSI 単位系が必要なのか,またSI 単位系がどのよ

うな仕組みでできているのかを解説する。次に,基礎物理定

数について学ぶ。基礎物理定数がどのように決められている

のか,また基礎物理定数を精密に決めることにどんな意味が

あるのかを実例を挙げながら解説する。最後に,精度良く決

められた物理量の中には、データベースとして利用できるも

のがある。そのようなデータベースの例や使いかたについて

も紹介する。

高柳 正夫

(東京農工大

学教授)

高柳 正夫

(東京農工大

学教授)

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回 テーマ 内 容

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3

分光環境計測 ある物質がどんな波長の光とどの程度相互作用(吸収した

り放出したり)するかを調べることにより、その物質がどん

な種類の分子からできているか、その分子がどのように存在

しているのか、どの程度の量存在しているのかを調べること

ができる。このような方法を、分光計測とよぶ。ここでは,

環境計測に用いられているいくつかの分光計測手法につい

て、その原理、装置、解析法から実際の応用例までを実例を

挙げながら紹介する。同時に,公定法やppm など環境計測に

よく用いられる表記法についても解説する。

高柳 正夫 高柳 正夫

相と相互作用


4

平衡と変化 一見、変化のないように見える物質的対象も、ミクロに観

察すると激しい変化を起こしている場合もある。例えば、一

見落ち着いて見える静水や空気中の分子は激しい衝突運動を

行っており、その中に含まれる分子には激しい反応が起こっ

ている可能性がある。すなわち、動的平衡にあると考えるべ

きである。また、物質系の変化の方向を決めるのはエネルギ

ーとエントロピーである。これらに関して、基本的な理解を

しておきたい。

濱田 嘉昭

濱田 嘉昭


5

相と相互作用 自然界の物質の示す性質や変化は、個々の分子の反応とい

うより、集合体としての性質が関係する場合が多い。すなわ

ち、分子が気体・液体・固体のどの相にあるかで、それらの

示す性質は大きく異なる。水および二酸化炭素を例にとり、

特にそれがわれわれの関わる物質環境の中で果たす役割につ

いて例示して解説する。最近、第4の相とも言うべき超臨界

状態が注目されている。その特異な性質を利用した技術につ

いても紹介する。

濱田 嘉昭

濱田 嘉昭


6

分子間相互作用 われわれが目にすることのできるマクロの物体は、ミクロ

の分子で構成された系である。しかし、この集合体は分子が

単純に集合しただけではない。分子と分子を結びつける相互

作用の種類と特徴を調べ、それらがどのような物質の系を形

作っているか、その結果、どのような性質として現れるかを

調べる。分子が集合できる力の源泉にはさまざまなものがあ

るが、特に水素結合は本質的に重要である。水素結合をして

いる系の例と性質を学ぶ。(より、小さな力であるがVan der

Waals 力などは、分子が集合してクラスタ→ミクロ構造→マク

ロの物体となる過程で重要である。その他の相互作用の種類

と起源、それらの物質系の例を話す。)

濱田 嘉昭 濱田 嘉昭


7

高分子の構造 われわれの身の回りにある高分子は,大きな分子とも,構

成繰返し単位が繋がった1 次元の結晶ともみなすことができ,

様々な性質を示し,生活に役立っている。高分子の構造は性

質の基盤となっており,高分子の構造は,その構成要素であ

る原子間の化学結合から理解することができる。原子は相互

に影響を及ぼしあいながら,微少な振動を行っており,振動

運動は構造を反映している。高分子の振動運動,振動を観測

する実験法である分光測定法,振動の観測から得られる構造

に関して解説する。

古川 行夫

(早稲田大学

教授)

古川 行夫

(早稲田大学

教授)

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回 テーマ 内 容

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8

高分子と機能 われわれの生活には高分子からできている製品が数多くあ

り,有機EL ディスプレイに代表される有機電子デバイスも開

発されている。それらの製品では,導体・半導体・絶縁体で

ある様々な高分子の電気的性質や,色などの光学的性質が利

用されている。高分子の性質は,高分子構造を基盤として,

構成要素である電子の状態により決定されている。高分子に

おける電子の状態,電子状態を観測する実験法である分光測

定法,電子状態と性質に関して解説する。

古川 行夫 古川 行夫


9

有機分子の自己集

合化

近い距離にある分子どうしには分子間力が働き、分子は自

己集合化して様々な構造体を形成する。中でも両親媒性分子

は、水中において疎水相互作用により自己集合化し、ミセル

やベシクルといった会合体を形成する。膜分子の構造と会合

体の構造の相関、そこにはたらく分子間力の原因についても

触れつつ、生命活動の基本単位である生体膜について概観す

る。また、階層性を上げた構造体が示す機能の例として、膜

を介したイオンの輸送現象についても触れる。

菅原 正

(東京大学大

学院教授)

菅原 正

(東京大学大

学院教授)

新機能材料および生命と分子


10

自己複製するジャ

イアントベシクル

第9章では、両親媒性分子の自己集合化によるベシクル(袋

状二分子膜)の 形成について述べた。ところで、ベシクルの

中でも光学顕微鏡で観察可能なジャイアントベシクルは、原

始細胞のモデルとして関心を集めている。ジャイアントベシ

クルの二分子膜は、外部環境と内部の反応系を仕切る隔壁で

あると共に、膜自身が、生命活動の 維持に必須な情報伝達・

分子変換の場となりうる。ここでは、ジャイアントベシクル

の二分子膜が自己の膜分子合成の反応場となることにより、

膜分子が生産され、ひいてはベシクルが分裂して増殖すると

いう、ベシクルの自己複製系のダイナミックスについて解説

する。

菅原 正 菅原 正


11

光学活性分子と生

左手と右手は互いに鏡像の関係にあり、そのまま重ね合わ

せることができない。分子にも同様の関係が存在する場合が

ある。例えば、糖やアミノ酸である。前者は重合してデンプ

ンやセルロースになり、後者は蛋白質になる。すなわち、生

命にとって必須の構成要素である。これらは、光の偏光面を

回転させるなどの働きがあり、光学活性分子とも呼ばれる。

原子の立体的な配置の違いが生命に決定的な役割を果たして

いる場合が多い。光学活性分子の働きについて説明し、それ

らを選択的に合成する方法、検出する方法などについて解説

する。

濱田 嘉昭

濱田 嘉昭


12

分子の立体構造と

生命

生命は外界からさまざまな分子を取り入れて、生体の構造

材料あるいはエネルギー源として、さらに、情報の手段とし

て用いている。味や匂いは外部との、神経伝達物質やホルモ

ンは生体内での情報伝達物質である。また、健康や病気から

の回復に薬を用いる。これらの分子がその機能を発揮する場

合、その立体的な形と反応に直接関与する部位の性質が重要

である。分子の立体構造と生命活動との関連を考察する。

梅山 秀明

(北里大学教

授)

梅山 秀明

(北里大学教

授)

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回 テーマ 内 容

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13

生体膜:脂質と二分

子膜

生命の基本単位である細胞は,膜によって外と内を仕切る

ことによって成立っている。これらの膜の構造を担うのはリ

ン脂質等の両親媒性分子である。両親媒性分子は,水中では

単分子膜,ミセル,二分子膜など様々な集合体を作る。生体

膜の透過障壁や流動性といった機能は,脂質二分子膜の性質

によっている。生体膜成分である脂質の構造,生体膜の基本

構造としての脂質二分子膜の構造と性質を概説する。

遠藤 斗志也

( 名古屋大学

大学院教授)

遠藤 斗志也

(名古屋大学

大学院教授)


14

生体膜:膜タンパク

質と膜輸送

細胞を構成する生体膜は脂質二分子膜と膜タンパク質から

構成されている。生体膜は,脂質二分子膜による透過障壁と

して機能するだけでなく,必要に応じて情報や物質の流れを

媒介するインテリジェントなインターフェスである。こうし

た機能を担うのは,生体膜に配置された様々な膜タンパク質

である。生体膜における膜タンパクの性質と構造,膜タンパ

ク質が媒介する膜輸送の仕組みを概説する。

遠藤 斗志也 遠藤 斗志也

まとめと展望


15

環境問題と物質 物質と環境の関係について、化学的観点からのまとめを行

う。自然環境を空気、水、土と分けた場合、どのような物質

が関与しているのか、何が問題とされているのか、どのよう

な対策を講じればよいのかの問題提起と現状の対策について

紹介する。

田隅 三生

濱田 嘉昭

田隅 三生

濱田 嘉昭