HOME 2004/11/08 1137212.doc 科目名物理の世界(03) 1/3 1 =物理の世界(‘03)=(TV 〔主任講師: 生井澤寛(帝京平成大学教授)〕 〔主任講師: 波田野彰(帝京平成大学教授)〕 全体のねらい ここ数年の傾向として、高等学校における科目選択や大学入試において、自然科学、特に物理学は嫌われているらしい。 その主な理由は、難しい、具体的なイメージがつかめない、訳の分からない数式や概念ばかり出てくる、等だと言う。世の 中には、物理以外にも面白いことはいっぱいあるし、物理を知らなくとも困ることはない、と思う人は多い。だが、物理を 初めから好きだという人は別としても、物理にあこがれたり、その深淵に触れてみたいという人は相変わらず多い。こうい う人達を捉えることがうまくできないとしたら、教える側にも責任はあるにちがいない。 ここでは、物理の嫌いな人には、物理が身近になったなあと、物理を好きだという人にはより好きになった、と思ってもら えるような「物語」として話を進めていこうと思う。だからあえて、物理学とは言わない。また、物理を身近に感ずるため には、体験が要る。身の回りのものでやれる実験を用意するので、自分でやってほしい。 回テーマ内容 執筆担当 講師名 (所属・職名) 放送担当 講師名 (所属・職名)
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物理とは何だろう 物理は、自然科学の基礎と言われる。では、物理は一体何 を相手にする科学なのだろうか。自然を相手にするとき、色々 な切り口があるが、この講では、大きさ、言い換えると長さ の尺度を中心に見ていって、物理の相手が何かを見ていこ う。もっとも小さい相手(素粒子)ともっとも大きい相手(宇 宙)を比べると、10 の後に60 個以上もの0 がつくほどの違い があることがわかる。物理は、こんなに広い世界を相手にす るのである。 生井澤寛 (帝京平成大 学教授) 生井澤寛 (帝京平成大 学教授)
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力って何だろう あの人は力持ちだとか、政界に力があるなどと、私たちは 日常的に力という言葉を使っている。では、物理で言う力と は何だろう。実は、物理の最も重要な目標は、自然界に存在 する力が何かを探りその力の原因を追究することだと言って よい。だから物理では、力についの定義は、きっちり定めら れている。この講では、力について、もっとも基本的なこと を、力が物体の運動の何と結びつくかを追及しながら学んで 行こう。 同上同上
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力は何を産み出す か:運動と仕事 力は、物を結合させたり、動かしたり、仕事をする。前の 講に続いて、力が運動の何と結びつくかをさらにつきとめる。 そうすると、運動に関する基本法則がわかるとともに、力の きちんとした定義が見えてくる。つぎに、力のする仕事につ いて考える。仕事を物理的にきっちり定めると、エネルギー とその保存則という、物理でもっとも大切な概念に到達する。 同上同上
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熱とはなんだろう 今日は風邪で熱があるとか、熱のこもった演説とか言う。 では、熱とは何だろう。「熱」には形容詞としての「熱い」 と名詞としての「熱」という意味の二通りの使い方がある。 つまり、程度と量としての使い方である。前者からは「温度」 という概念が生まれ、後者からは第3講で学んだ仕事と同じ、 エネルギーの一形態としての「熱」という物理量であること がわかる。この関係を追求すると、温度と熱についてふだん から知っている当たり前のことから、きわめて基本的な法則 が見えてくる。 波田野彰 (元東京大学 大学院教授) 波田野彰 (元東京大学 大学院教授) 2004/11/08 1137212.doc 科目名物理の世界(03) 2/3 2 回テーマ内容 執筆担当 講師名 (所属・職名) 放送担当 講師名 (所属・職名)
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熱は全部仕事に変 えられるか 第4 講で熱は仕事と等価であることを知った。仕事は全部 熱に変えられる。では、熱は全部仕事に変えられるのだろう か。実は、この答えは誰でも知っている。環境にやさしい、 燃費効率の良いエンジンを開発しようという努力は、実は、 燃料の持つエネルギーの全てを仕事に変えることが出来ない ためにやむを得ずする努力なのである。熱を仕事に変える効 率をより良くしようという努力が、熱についてのもう一つの 重要な基本法則を導いた。 波田野彰波田野彰
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水の不思議 水は生命を育んだ。水なしには生物は存在できない。物理 だけで、水のこの役割を全てときあかすことは出来ないが、 第4 講から第5 講にかけて学んだことをもとにして、水の基 本的な性質を考えよう。まず、水に限らず、全てのものが置 かれた条件の違いで示す姿(相)と相の間の変化の様子につ いて見ていく。つぎに、水の特異性について探り、なぜ水が 生命を生み出し、どのように現在、私たちの住む生命圏を作 り維持しているかを見る。 生井澤寛生井澤寛
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波は場だ バネに重りをつけ、引いてから放すと振動する(調和振動)。 では、沢山の重りの間をバネでつないでいったら全体ではど ういう運動をするだろうか。答えは波であることを見る。こ の重りとバネの系は、実は、物質のごく単純化された模型 とみなすことができるだけでなく、波を場という概念で捉え ることを可能にする。そして、振動や波は、物理に限らず、 自然界で安定な状態を少し乱したときに必ず表れる普遍的な 運動(励起)状態であることを見ていく。 同上同上
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光も波 音と光を例にとって、前講で見た振動と波の基本的な性質 を探る。特に光は、レーザーのペンライトで見るように、ま っすぐ進み、鏡にあたれば反射し、水に入ると曲がる(屈折) ので、ニュートンですら小さな粒だと考えた。一方、シャボ ン玉は虹色に輝き、水面の油の膜もやはり虹色に見える。こ れらは光を小さな粒とすると説明できない。では、光は何か。 詳しく調べると、光は波長の短い波であり、後で学ぶ電磁波 の一種であることがわかる。さらに、波長の異なる波をたく さん重ね合わせると、粒子のように動く魂を作ることが出来 る。これは、第11講と12講で見るミクロの世界の理解へ の橋渡しとなる。 同上同上
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電気無しでは生き られない 電気が無ければ、ふだんの生活も生産活動も情報交換も麻 痺状態になるだけでなく、私たちも、原子も分子も存在でき ない。では、電気とは何か。電気の正体を探っていくと、電 荷とその運動に行き着く。さらに、磁気ができる原因も分か ってくる。そして、電荷の間の力が物を作り上げる基本的な 力の一つであることもわかる。電磁気の現象の理解は、ミク ロの世界の理解が無くては完結しないのである。ここでは第 7講で学んだ場の概念が不可欠となる。電磁気を場(電磁場) ととらえることで理解が深まるとともに、ミクロの世界が見 えてくるであろう。 同上同上
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電気を作る 電気を作るにはどうしたらよいのだろうか。また、電気によ って、モーターはどうして動くのだろうか。前の構でわかっ たことから、簡単な発電器とモーターを作って動かしてみよ う。こうして電気は、仕事と互いに変換し合うことがわかる。 他にも電気は、照明(光)や、電話(音)、ヒーター(熱) の例のように、他の形のエネルギーと容易に変換しあえるこ とも見ていこう。さらに、光も実は、電磁場の振動=電(磁) 波の一部であることを第8講より詳しく見て行こう。 同上同上 2004/11/08 1137212.doc 科目名物理の世界(03) 3/3 3 回テーマ内容 執筆担当 講師名 (所属・職名) 放送担当 講師名 (所属・職名)
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量子って何 これまでの講に出てきた物理は、その骨格がすでに19 世紀の 末までできあがっていて、古典物理と言われる。20 世紀にな ると、この古典物理では理解できない現象が次々に見つかり、 現代物理の世界に入ることになった。その代表的な例として、 高温物体から出る光の色と温度の関係(黒体輻射)、光を当 てたとき金属から出る電子と光の波長の関係(光電子効果)、 温度の低いときの比熱と温度の関係(低温比熱)、放射能を 取り上げて、量子が何かを突き詰めていく。また、電子と原 子核から原子がどうできるかにも触れよう。 生井澤寛生井澤寛
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電子無しでは生き られない 前の講で学んだ量子的な性質を持ち、原子や分子の主役で、 また、私たちの日常生活に欠かせない色々な電子機器の働き を担っているのが、電子である。電子はマイナスの電荷を持 った軽い粒子であると同時に、量子の世界では、光と同様の 波として振る舞い、磁気も持つ。電子は原子や分子で主役と して振る舞うこと、私たちの身の回りの物は電子が形を作っ ていること、色々な日常の変化も電子が主役であることを学 ぶ。また、電子の働きを私たちは目的にかなうように制御す る技術を持っている。この技術は電子工学と呼ばれているが、 そこでは電子がどのような役割を演じているのだろうか。真 空管の中での電子の振る舞い、半導体という物体での電子の 振る舞いを通じて、その制御の仕組みを学ぶ。 波田野彰波田野彰
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素粒子の世界 電子を通じて、ミクロの世界の一端を見た。電子は軽いが、 物の質量のほとんどを担う原子核とともに、原子や分子を作 り、その性質や、私たちが目にする物質を作る際の基本的な 役割を果たすことを見る。では、原子核は何で出来ているか。 そして、この世界の究極の構成要素は何であり、どうやって、 この世界が出来るのか。これらを突き詰めるのが素粒子の研 究であり、これからの物理の大きな課題でもある。 生井澤寛生井澤寛
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光に追いつくか 20 世紀に、量子とともに現代物理を作ったもう一つの物理 が、相対論である。相対論は、光の速度に近い高速で運動す る物体の振る舞いを理解することから始まった。そして、古 典物理の世界では互いに独立と考えられていた時間と空間 が、互いに離れがたい関係にあることを示してくれた。さら に時間と空間を、統一した場の入れ物と考えると、素粒子の みならず重さのある物の間に働く重力の起源が理解できそう である。宇宙規模での世界の理解がどこまで進んだかを見て いこう。 同上同上
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環境と物理 物理をはじめとする自然科学と、それをもとに生まれた技 術の進歩は私たちの生活を豊かにしたが、その半面、様々な 形で公害を産み出し、地球の生命圏自体を脅かすほどになっ ている。なぜこうなったかは、特に第5講と第6講とで学ん だ事柄によって、地球規模の安定性が大きく乱されようとし ていることをみる。では、この事態をどう解決するか。それ はまた、自然科学や技術を生んだ物理を初めとする科学の役 割でもある。物理の立場から、環境問題の解決策を探り、私 たちにできる工夫を産み出すための提言をともにしていきた い。 波田野彰波田野彰