HOME - 1 - =現代における伝統演劇(‘02)=(TV 〔主任講師: 渡邊守章(放送大学名誉教授・演出家)〕 〔主任講師: 渡辺保(放送大学教授)〕 全体のねらい 日本には「伝統演劇」と呼ばれる舞台芸術がある。これは、例えば西洋演劇における「古典」が、主としてテクストや譜 面のみが伝えられて来たのとは異なり、舞台表現の総体が、数世紀にわたって人から人へと伝承され、現在もなお演じ続け られている。そのために、世界的にも貴重な<舞台芸術の知>として、日本以外の多くの演劇人や更には他の領域の芸術家 から注目されて来た。その代表的なものとして、歴史的起源の古いものから、主として、能・狂言、人形浄瑠璃(文楽)、 歌舞伎について、代表的な作品と理論的なテクストを取り上げ、これらの演劇伝統が、現代の日本及び世界の演劇文化にと って持ちうる意味を考察する。 回テーマ内容 執筆担当 講師名 (所属・職名) 放送担当 講師名 (所属・職名)
1 伝統演劇とは何か 日本の舞台芸術の伝統と伝承の特殊性。伝承されるものは 何か。演技とテクスト。この科目の理論的フレーム。テーマ の現代性と国際性。映像資料は、現代の若き狂言師野村萬斉 演じる「三番叟」『ハムレット』『葵上―能ジャンクション』、 舞楽は『陵王』、能は梅若六郎の『井筒』、狂言は茂山千作 の『宗論』、文楽は桐竹紋十郎の『酒屋』、歌舞伎は尾上松 緑菊五郎の『髪結新三』、そして梅蘭芳の京劇『貴妃酔酒』 にジャワの宮廷舞踊、ジュネの『バルコン』など。問題の地 平を映像的に示す。 渡邊守章 (放送大学名 誉教授・演出 家) 渡辺保 (放送大学教 授) 渡邊守章 (放送大学名 誉教授・演出 家) 渡辺保 (放送大学教 授)
2 能の地平 能の始原的な構造と作用を「翁」によって考察する。平成 11 年7月に開催された国際世阿弥シンポジウムにおける『翁』 の特別上演(観世栄夫、野村萬斉、大倉源次郎出演)と、シ ンポジウムの討議を素材とする。 渡邊守章 松岡心平 (東京大学助 教授) 渡邊守章 松岡心平 (東京大学助 教授)
3 能あるいは記憶の 劇場 能は14 世紀に成立して、そのままの形で現代まで伝承され たのではないが、「記憶の劇場」としては世界にも類をみな い完成を遂げた。記憶の能作術と舞台の典型を、系譜学の可 能な『松風』(後藤得三)と、世阿弥作の複式夢幻能の典型で ある『井筒』(梅若六郎)と『融』(友枝昭世)によって分析す る。 渡邊守章渡邊守章
4 世阿弥の思考 能の大成者である世阿弥は、役者として一座の棟梁であっ たばかりではなく、能作者であり、現代風に言えば演出家、 作曲家、振付家であり、更には、世界の舞台芸術のみならず 芸術全般において、類稀な理論家であった。世阿弥の作業を、 その伝書を通じて考察し、その現代的な意味を考える。 渡邊守章 松岡心平 渡邊守章 松岡心平
5 狂言の言葉と身体 能の「もどき」である狂言は、単に中世の笑劇ではない。 その笑いの捉え方を始め、喜劇の根拠をなす呪術的な根を考 えるには恰好のジャンルである。能との対比構造を世界の演 劇の記憶のなかで位置づける。渡邊守章渡邊守章
6 人形浄瑠璃と劇の 言説 現在「文楽」とよばれている人形浄瑠璃は劇作術において もまた三人遣いによる人形の演技としても、世界に類のない 舞台表現である。映像は、吉田簑助の解説、桐竹紋十郎の『艶 容女舞衣』「酒屋の段」、簑助の『本朝廿四孝』「狐火の段」 など人形遣いの技法と表現に焦点をあてて考える 渡辺保渡辺保 - 2 - 回テーマ内容 執筆担当 講師名 (所属・職名) 放送担当 講師名 (所属・職名)
7 人形浄瑠璃の <世界> 文楽の時代狂言は、同時代に起きた武士階級のドラマを主 題としつつ、それらを例えば『太平記』の<世界>に起き直 して表現する。こうした劇的虚構の生成は、町人階級の文化 的創造力を測る上で鍵となるだろう。文楽の代表作『菅原伝 授手習鑑』「丞相名残の段」(吉田玉男)、『摂州合邦辻』 「合邦住家の段」( 桐竹紋寿・吉田文雀)、『仮名手本忠 臣蔵』「三段目」「四段目」「六段目」(吉田文雀、吉田作 十郎他)の分析を通して、舞台が如何に文化を表象する<装 置>として成立しているかを考える。 渡辺保渡辺保
8 音曲と語り物 人形浄瑠璃は三味線音楽に支えられた<語り物>である。 『恋飛脚大和往来』「新口村の段」(野澤喜左衛門)、『絵 本太功記』「十段目」等を例に取り、人形浄瑠璃における三 味線音楽と言葉の劇的・演劇的構造と作用を分析する。同上同上
9 歌舞伎と文楽 歌舞伎の丸本物は、人形浄瑠璃の作品を歌舞伎に移したも のだが、それが歌舞伎の劇作術も演技も、極めて豊かなもの にした。『菅原伝授手習鑑』の「車曳」、(文楽)と「車引」 (歌舞伎)、『鬼一法眼三略記』の「菊畑」『絵本太功記』 「十段目」の歌舞伎ヴァージョンと文楽ヴァージョンを比較 しつつ、この二つの舞台表現の特性を考察する。 同上同上
10 歌舞伎における 舞踊 歌舞伎の重要な演目を構成する舞踊はどのような特性を持 つのか。能の舞と比較しつつ、舞踊を考える上での基本的フ レーム・ワークを行なう。映像は能『石橋』(宝生英照)と 歌舞伎『鏡獅子』(中村富十郎)。同上同上
11 世話物の舞台 歌舞伎が同時代演劇として成立する上で重要な役割を演じ たのは<世話物>と呼ばれる同時代の町民階級のドラマによ ってであった。その代表的な作品『お染久松色読販』(「お 染の七役」『梅雨小袖昔八丈』(「髪結新三」)、『青砥稿 花紅彩画』(「弁天小僧)によって、劇的言語の変容を分析 する。 同上同上
12 伝統演劇とジェン ダー 日本の伝統演劇を特徴付けるものの一つに男性が女性の役 を演じるということがある。現代におけるその創造的意味を、 アジアの伝統演劇(京劇やインドのヤクシャガーナ)と対比 しつつ、現代演劇の側から分析する。日本の現代演劇で例に取 るのは、ジュネ作渡邊守章訳・演出、篠井英介主演『バルコ ン―革命夜話幻想館』である。 渡邊守章渡邊守章
13 伝統演劇の幻惑(1) ―クローデルと日 本の伝統演劇 日本と中国の伝統演劇に実際に触れ、その現代的意味を主 張したのは、フランスの劇詩人ポール・クローデルである。 この「先駆的な」劇詩人の視線とその変容を、京劇、舞楽、 能、文楽、歌舞伎について分析する。同上同上 - 3 - 回テーマ内容 執筆担当 講師名 (所属・職名) 放送担当 講師名 (所属・職名)
14 伝統演劇の幻惑(2) ―アルトー、ブレヒ ト、そして… 20 世紀の演劇に決定的な影響を及ぼした二人の演劇人、つ まりアルトーとプレヒトは、それぞれの形で東洋の演劇に強 い衝撃を受けている。現在では、「太陽劇団」を率いるアリ アーヌ・ムヌーシュキンや、アメリカ出身でヨーロッパでの 活躍のめざましいロバート・ウイルソンなど、20 世紀西洋演 劇の先端的演出家が、東洋の伝統的演劇表象と切り結ぶ舞台 を考察する。 渡邊守章渡邊守章
15 世界化のなかの伝 統演劇 みずからの独創性の根拠として、東洋の伝統演劇に負うと ころを主張する欧米の演劇人は少なくない。その意味では、 日本の伝統演劇も、日本人とその文化の特殊性の内部に閉じ こもってはいられず、創造的な外部の視線に晒されているは ずだ。世界化の地平における伝統演劇の読み直しの作業はど のようなものか。2001 年9月にフランスで世界初演を行なっ たクローデルのテクストによる新作能『内濠十二景あるいは 二重の影』(渡邊守章作・演出,観世栄夫作曲、主演)の製作 を例に、幾つかの実験的な舞台を検証してみる。 渡邊守章 渡辺保 渡邊守章 渡辺保