HOME 2004/12/17 8910189.doc 1 = 情報化社会研究(‘05)=(TV) −メディアの発展と社会− 〔 主 任 講 師: 柏倉 康夫(放送大学教授)〕 全体のねらい 情報革命と遺伝子工学の進展で幕をあけた新たな時代に、私たちの生活はどのような 変化をとげるの か。未来を予測するのは困難だが、一つ確実にいえるのは、情報環境の変化が大きな 要因になることで ある。ただ情報の世界にあっては、新たな伝達手段が登場しても、以前の技術がなく なるわけではなく、 私たちは多様化する伝達手段を使い分けながら必要な情報を摂取する。それがひいて は私たちの社会の 枠組みを大きく変化させていく。20 世紀後半に始まったデジタル革命によって、工 業文明から情報文 明と呼ぶべき新たな段階に入った私たちの社会のあり様を、情報の視点から考察す る。 回 テーマ 内 容 執筆担当 講師名 (所属・職名) 放送担当 講師名 (所属・職名)
1 コミュニケーショ ンと伝達 ―ドブレのメディ オロジーを中心に ― フランスの哲学者レジス・ドブレは1991 年に発表した「一般 メディオロジー講義」の中で、彼が提唱するメディオロジー とは、高度な社会的機能を伝達作用の技術的構造との関係に おいて扱うものだと述べている。事実、ドブレはその著作で、 人間集団の象徴活動とその集団の組織形態との関係の間にあ る関係を、宗教、イデオロギー、文学、芸術などの具体的事 例に即して検証している。だがこの新たな思考モデルは一方 で論争と反発も引き起こした。初回の講義では、「メディオ ロジー」の思想を中心にコミュニケーションと伝達の問題を 考える。 柏倉 康夫 (放送大学教 授) 柏倉 康夫 (放送大学教 授)
2 時間意識の変容 ― 2 0 世紀の芸 術・文学に現れた時 間― 情報伝達手段の進展と変化は、当然、私たちの世界観に影響 をあたえ、意識のあり方を変化させてきた。19 世紀半ばから 20 世紀にかけて発展した輸送手段や、新たに登場したメディ アは、とりわけ時間に関する私たちの認識を大きく変えた。 そしてインターネットで個々人が結ばれる現在、いわば「人々 の心が接続される」事態が起こりつつある。このとき私たち の時間意識はどのように変貌するのか。この問題を20 世紀に 登場した代表的な文学作品などを資料に用いて検討する。 同 上 同 上
3 話し言葉の復権 ―書くこと・話すこ と― 印刷技術の発明とその発達につれて、「話すこと」はその価 値をますます減らしているように見える。こうした現象はあ らゆるところで見られるが、とりわけ高度な社会生活の局面 で顕著である。たとえば学術研究においては、次々に印刷刊 行される本や論文が重視され、講義や講演、セミナー、研究 室での討論の比重が下がっている。「本のように話す―口承 性と知」の著者フランソワーズ・ワケ(CNRS研究所長) は、こうした傾向に疑義を申し立てている。彼女の議論を中 心に話すという基本的伝達手段の意味を考える。 同 上 同 上
4 印刷・書物・電子テ クスト 印刷出版の歴史で革命を起こしたのは、いうまでもなく1450 年ころにグーテンベルクが発明した活版印刷術である。それ から凡そ500 年間、この技術が人間のリテラシー(読み書き) 向上に与えた影響は計り知れない。人々は鉛活字でインクを 紙に印刷して書物をつくり、新聞、雑誌を発行し、膨大な情 報を伝えるとともに、知識を蓄積してきた。だが印刷物の世 界は、第二の革命といわれるコンピュータの導入によって、 テクストの持つ意味が大きく変わりつつある。この回では印 刷媒体の変遷をたどりつつ、「テクスト」の本質を論じる。 同 上 同 上 2004/12/17 8910189.doc 2 回 テーマ 内 容 執筆担当 講師名 (所属・職名) 放送担当 講師名 (所属・職名)
5 拡大する映像世界 ―写真・映画・テレ ビ― 19 世紀以来、写真・映画・テレビと次々に登場した映像メデ イアは、集団的あるいは個人的想像力を形づくるのに大きな 力を発揮した。ただ注意しなければならないのは、写真、映 画、テレビはそれぞれメディアとしての機能が異なることで ある。しかも、映像がコンピュータと結びつくことで、本質 的変化が起こっている。現実とその映像という関係が逆転し、 コンピュータのシミュレーション機能により、映像が現実に 先行する事態が生じている。「イメージの文明」の現在を考 える。 柏倉 康夫 柏倉 康夫
6 ラジオの過去と現 在 ―あるメディアの 歴史― カナダ生まれの文明批評家マーシャル・マクルーハンは、「メ ディア論」で、ラジオというメディアを部族の太鼓と呼んだ。 これはかつてラジオが民族や文化の深層に訴えかけて、歴史 を動かした経緯があったことを指している。しかしテレビと いう新たな情報システムが出現して以降、ラジオはむしろ話 し手と受け手を一対一でつなぎ、個人的メッセージを伝える という側面を強めている。そして、それがラジオの復権をも たらしている。20 世紀前半をリードしたラジオというメデイ アがたどって役割を検討する。 同 上 同 上
7 絶え間なき通信の 時代 通信の技術はこの100 年で大きく変わった。無線通信、海底 ケーブルの設置、電話の普及、そして携帯電話の登場。これ らの通信技術は、人々が生活し行動して、人間関係を築くの に大きく貢献し、仕事や職場のあり方を変えた。ときどき登 場した新たな通信技術が、利用者を取り巻く社会的環境と物 理的環境をいかに変えてきたか。世界的規模で普及しつつあ る携帯電話などの移動体通信の特性を含めて、歴史的に展望 する。 吉井 博明 (東京経済大 学教授) 吉井 博明 (東京経済大 学教授)
8 放送規制の展開 免許制度の下に置かれた放送事業の発達は、つねに制度的規 制と密接なかかわりを持ってきた。この回では放送の制度的 規制がどのような変遷をたどってきたかを、アメリカの事例 を中心に振り返るとともに、とくに1980 年代以降に進んだ多 メディア・多チャンネル化やデジタル化の過程で起こった、 放送メディアの制度的規制に対する新たな論議を題材にしつ つ、放送メデイアの制度的特質を論じる。 音 好宏 (上智大学助 教授) 音 好宏 (上智大学助 教授)
9 放送メディアの現 状と課題 近年の電気通信技術の発達などを背景に、通信と放送の融合 など、放送サービスは、いま大きな変革の時期を迎えている。 今後、放送サービスは、社会的・制度的にはどのように位置 づけられ、またこれまで果たしてきた社会的機能はどのよう に維持されうるのか。放送はさまざまな課題に直面している。 放送メデイアの現状を踏まえつつ、これらの問題の意味する ものを検討する。 同 上 同 上
10 コンピュータ・ネッ トワークの開発思 想 1969 年に稼動し始めた国防総省のARPAネットは、のちに インターネットのバックボーンとなったことで知られる。こ のコンピュータネットワークはどのような思想のもとに生ま れたのか。ARPAネット構築を進めた情報処理技術部の初 代部長リックライダーの思想形成の過程を縦軸にして、1960 年代に情報化社会の未来像がどのように描かれていたかを取 り上げる。 喜多 千草 (関西大学助 教授) 喜多 千草 (関西大学助 教授) 2004/12/17 8910189.doc 3 回 テーマ 内 容 執筆担当 講師名 (所属・職名) 放送担当 講師名 (所属・職名)
11 だれもが使えるコ ンピュータの誕生 現在のパーソナルコンピュータで使われている、書類・フォ ルダ・ゴミ箱などのある「デスクトップメタファ」は、1980 年代にゼロックス社で生まれて広まったものである。当時、 開発者たちが思い描いた未来のコンピュータ社会とはどのよ うなものであったか。この回では、誰もがコンピュータを使 う時代がどのようにして始まったのかを検証することで、今 日の情報化社会形成の発端を考える。 喜多 千草 喜多 千草
12 情報の画一化と社 会 ― 戦争報道の 現実 ― 伝達手段が飛躍的に拡大した結果、マスメディアがにぎる話 題設定能力が強化され、政治・社会、ひいては経済活動まで が、メディアが選択し提供する情報に左右される事態となっ ている。しかもマスメディアの寡占化が進み、新聞、雑誌、 テレビの分野で資本を同じくする系列では、同一のニュース や論調が世界規模で流され、世論形成に力をふるっている。 この回では、以上のよう状況を、ヴェトナム戦争と湾岸戦争 を例に検証する。 柏倉 康夫 (放送大学教 授) 柏倉 康夫 (放送大学教 授)
13 文化と情報経済 グローバル化する世界には、ソフトパワーとして世界に大き な影響力を持つ文化の浸透と地域社会に根づいた多元的な文 化との相克が横たわっている。インターネットによる情報の 大交流時代を迎え、メディアによる文化の発信は、多国間の さまざまな政治的課題を超えて、自国文化の経済化や安全保 障上の主題ともなっている。情報化社会におけるソフトパワ ーと文化経済について考察する。 武邑 光裕 (東京大学大 学院助教授) 武邑 光裕 (東京大学大 学院助教授)
14 デジタル社会の著 作権 デジタル社会は、これまでの重量的媒体によって支持されて きた情報を符号化し、旧来の媒体概念を離散、流動化させて いる。複製、改変が容易に行えるデジタル情報の特性から、 著作権やコピーライトの概念そのものが根本的に問われてい る。公共性と私有制の間で揺れ動くデジタル社会における知 的所有権や著作権のあり方を検討する。 同 上 同 上
15 情報化社会の行方 ― 個人・地域・国 家 ― ますます多様化する情報手段は、既存の国家や民族の概念に 影響をあたえずにはおかない。それは地球規模で棲み分けと 共生が可能な社会システムの構築を期待させる。情報技術の 進歩は今後も私たちの生活や社会構造を変え続けるに違いな い。だが一方で、それは個人のレベルや集団レベルで情報の 格差を生み、それが時間とともに拡大する危険をはらんでい る。さらにはアイデンティティーの危機やリアリティーの喪 失といった事態をもたらすことも危惧される。情報化社会の 将来を検討する。 柏倉 康夫 吉井 博明 武邑 光裕 音 好宏 柏倉 康夫-