言葉の通ってきた道


 生まれたばかりの赤ん坊は口で呼吸すらできない。当然言葉もしゃべれない。三ヶ月頃になると顔が前方にせり出し、喉頭が下がり、神経は再プログラムされる。この移行期は赤ん坊にとって危険きわまりない時期で、ちょうど原因不明の突然死がおこるピークと一致する。この時期を過ぎると自らの選択で鼻あるいは口で呼吸ができるようになる。そして言葉が発せられるように成れる。「第一言語」の誕生だ。

 しかしこの代償も払っている、さっきの突然死のほかに、人間だけが、自分の嘔吐物に溺れて死ぬという屈辱をもった。私達が普段なにげなく話している言語も進化のプロセスのなかでそれなりのリスクと引き替えに手に入れたものなのだ。

 さて、「むにゃ、むにゃ」程度にしゃべれるようになった赤ん坊は六ヶ月から一年のあいだのある時期に突然片言すら発しなくなる。そしてあるとき突然話す事がなんなのかやっと合点がいったとばかりに、大人のまねをしたりまたしやべりはじめる「第二言語」の時期に入ったのである。

 「第二言語」の誕生時には呼吸器系などの変化はおこらない。しかし、赤ん坊の意識の中で、何かが結びついていったのだろう。

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