惑星と元素


 外世界で起こっていることの大半は、変動しない普遍定数と言われるものによって決定されている。ところがそのうちの多くに、ほとんどあり得ないような偶然の一致があるのが認識されだしたのは、ごく最近のことである。

 例えば、あらゆる自然現象は、たった四つの基礎的な力によってなりたっているが、(重力、電磁力、二つの核力)重力と電磁力とが絶妙なバランスを保っているという事実も、決してとるに足らぬ偶然ではない。仮に力のバランスが、重力に傾いていたら、全ての恒星は巨星になっていたはずだ。逆に、電磁力の方に傾いていたら、今頃宇宙はクズ星だらけになっていただろう。どちらも生命の生まれる可能性はない。

 私達の地球も一見なんでもない星のように見える。にたように回転する多様な惑星の中で、ごく典型的な存在といえなくもない。けれども事実は宇宙のほとんどの星が気体状で不安定な状態にあるにも関わらず、私達のこの惑星は固体の状態にあり、太陽との距離も絶妙にたもっている。この不可能ともいえる偶然が実現したとき、地球はさながら、生命の種子を引き寄せる磁石となったのだ。

 自然界にはたった一〇七個の元素しか存在しない。理論的にはこの元素で、何でもつくれることになっている。しかし現実には一〇七個のうち大半はめったに使われることがない無機質な稀少品であり、生命世界の総体は、炭素、水素、窒素、酸素の四元素で構成されている。たった四つの組み合わせで、どれほどのことができようかと思うのだが、事実は無限ともいえる生命の種を創りだしている<その中でも炭素の役割は広く、蛋白質、アミノ酸、ビタミン、脂肪、炭酸化合物等、私たちの体を作り上げている物は、炭素を骨組みとして作られた分子だ。

 実はこの炭素の存在自体が、非常に精密で、普通では考えられない偶然に依存している。炭素原子は三つのヘリウム原子の結合により合成されるのだが、空中を漂うヘリウムが偶然三つ同時に出合うことはまずありえない。ほんの偶然から二つの原子が出合い、ベリリウム原子核にまでには成れるとしても、非常に不安定で次の偶然にたよっていてはヘリウムとの結合までに分解してしまう。しかしベリリウム原子核はその非常に短命な期間に核共鳴という現象によって、ずっと遠い所から、第三のヘリウムをとらえる特殊な磁力のような力を持っていた。

 これすら奇跡といっていいものだがこれはまだ話の半分にすぎない。この炭素に更に一つヘリウムを加えると酸素になるが、ここではまた逆に偶然の出合いのみに頼っている。もしここでも共鳴が起こっていたらすべての炭素は燃え尽きて生命は誕生しなかっただろう。

 こんな偶然をもたらすには、自然の法則それ自体でも十分だったのかもしれない。だからといって自然の法則だけでは事の一部始終を語り尽くしたことになるのだろうか?

 圧倒的な混沌の中から抽出された秩序の産物、積極的な気まぐれに肩入れしがちな宇宙が選び出した偶然の申し子、それが生命である。仮に、私達に知性が認められるとすれば、それは、私達が創造力豊かな過程の一部であるからに他ならない。つかの間の思いつきに終わるかもしれないにせよ、私達は知的な宇宙の心に宿った、一つの観念なのだ。

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