1992 年 |
コンプレクシティへの招待 COMPLEXITY複雑性の科学 |
ロジャー・リューイン
Roger Lewin |
ガイア仮説が複雑系の科学の裏付けによりガイア理論になる。ガイア仮説に関しては自己組織化の観点からすると可能なように思えます
とくにカウフマンの共進化モデルとの比較がおもしろいだろう。
ラブロック>君にみせたいものがあるんだ。ほら。このコンピューターの中に一つの惑星が存在する。つまり人工的に環境をつくったわけだ。
この生命のない世界に太陽の光量をあげてみると、気温がどんどん一直線にあがっていく。
では今度はこの星に白いデイジー(雛菊)と黒いデイジーを植樹してから、同じ光量の変化を与えてみよう。
ソフィーは画面をじっと見つめていた、すると太陽の光量がまだ少ないうちは黒いデイジーが盛んに増えていき、さらに光量が増えると枯れてしまった白いデイジーはこのときを境目くらいにどんどん増えだした。そして温度計は不可解なグラフを描いていた。最初のうちは生命のない惑星と同じ直線で温度が上昇しているのだが、23度ぐらいから水平がしばらく続きまたやがて上昇を始めていた。
ラブロック>温度が階段状に変化しているに気がついてもらったと思うけど、ひどく簡単なモデルだけど光と熱に反応する2種のデイジーがあるだけで温度が水平に維持されるメカニズムが働くんだ。
ソフィー>白と黒のデイジーはなにを意味するの?
ラブロック>これは生物集団のモデルで白と黒のデイジーは成長する場所を奪い合っているというモデルだ。光が弱いうちは光の吸収がいい黒のデイジーが成長し、強う過ぎると光を反射する白いデイジーが有利になるとうわけだね。
つまり、すべての生命が滅んでしまうまでこの惑星は水平に保とうとする力がはたらくということだ。
地球の受ける光量はどういう変化をしているのかグラフにしたものがある。
実に生命誕生以来25%も増加しているのにわずか数%しか気温は変化していない。
ソフィー>でもこんな簡単なモデルで証明したことになるの?
ラブロック>なるとも私は以前に生物相と物理相は密接に結びついていると言ったね。生物相は自らのため最適な物理的条件を確保しようとするとも言った。
これは宇宙のあらゆ複雑な系と同じく、系のもつ特性から創発される。デイジーワールドモデルはそれを成し遂げている。試しに20種のデイジーをウサギを5種、狐を3種でやってみよう。
それは3つの栄養段階を示していてちょうどいいモデルになるからね。一次生産者としてのデイジー、草食動物のウサギ、そして肉食動物としての狐だ。
シミュレーションはまたもうまくいった。温度は一定に保たれたのだ。
ラブロック>どうかね?もし僕がある文献を読んで「できない」ことを知っていたら、このモデルは作成しなかっただろう。先にシミュレーションがあって初めてそこから考え始めたんだ。複雑な系と通してそこに現れる像は、実像という単純なものの場合もあるんだ。
ソフィー>カオスにならないってことね。
ラブロック>いやカオスには2種類の意味があるから気をつけておくれ。一つは哲学としての「全くの混沌」だ。複雑系ではひどく予測不可能だけど基本的には決定論として使われる「カオス」だ。
これを説明するための次にもっとおもしろい実験を見せてあげよう。
ラブロックがそういって送ってきたのは100種類のデイジーを与えられたデイジーワールドだった。
ラブロック>この環境で最初は光量の変化の無い状態をしばらく続けて、それ以上の変化がないようだったら、光量を4%増大させてごらん。
さっそく手元にあるプログラムを起動し観察してみた。そして最初の変化はすぐに始まった。デイジーの種類がどんどん減っていくのである。「これは絶滅…?」
それはまさに絶滅のモデルといっていいだろう。最初は100種類もあったデイジーがどんどん死滅し、今画面の中にあるのはわずか2種類だけになってしまったのだから。「環境の変化だけ絶滅の引き金になるわかじゃない、安定の引き金になるんだ。」
次にソフィーは光量を4%増やしてみた。すると「すごいデイジーが一気に増えていく。これは…」
ラブロック>「多様性の爆発」だ。4%の光量の増大は地球がちょうど1万年前に体験した氷河期から抜けだすときの変化とおなじことだ。こに時代に地球になにが起こったかは君の知っての通りだ。
温度はしばらく上昇を続けていたが、また水平を維持し始めていた。断続的平衡状態に入ったのである。
ソフィー>「多様性の爆発」?それじゃあ、カンブリア大爆発の原理もここにあるのかしら?
ラブロック>今そのモデルになる基礎データを集めているところだ。まだしばらくかかるけど。僕の直感ではYESだね。生命集団は「カオスの縁」であやういバランスを保っているんだ。光量変化といた環境の変化は複雑な系を一挙にカオス的段階に押しやったととらえることができるね。
ドレイク>実におもしろい。私もコンプレクシティで生態系を記述できるか実験してみたことがあります。ここで紹介させてもらいていのですが、宜しいでしょうか?
ラブロック>どうぞ、どうぞ。歓迎いたしますよ。
ソフィー>私は誰でも歓迎よ。
*ドレイクのコミュニティーモデル
ドレイク>ありがとう。ではさっそく私の作ったモデルをメールするからね。
画面に現れたのは、山とその生態系を構成する動植物群だった。
ドレイク>これは実際にハワイの環境をモデルに作られている。この環境すでに協力なコミュニティーを作っていて、新しい動植物群は用意にははいりこめない。
新種には125種類あって、これを一つ一つコミュニティーに植えて見るんだ。ちょっと種類が多いから過去に僕が行った実験をシミュレーションさせるよ。
画面ではめまぐるしくシミュレーションが繰り返されていった。
しばらくしてドレイクが話しかけきた。
ドレイク>さて画面はどうなったかな?
ソフィー>コミュニティーにうまく入れるものもあれば、失敗するもの、最初はうまく入れても途中で脱落するものいろいろあったわ。今画面には15種類の動植物からなるコミュニティーができあがっているわ。
ドレイク>ここから考えられた一つの結論は、こうした群集を構成した種は、競争者より特に強かった種ではないってことだ。強固なのは、このコミュニティーのダイナミズムで、条件さえ与えられればどんな種も強力なダイナミズムを形成できることが判った。
ラブロック>すばらしいイメージだね。創発の見事な例だね。
ドレイク>それからもう一つ重要なことに気がついた。最終的に残った15種類だけを取り出して、一種類ずつ、まっさらな環境に移植しようとしても、どの種から初めても、どんな組み合わせでも、このコミュニティーは再現できないんだ。つまり途中で脱落していった種が無いと今のバランスは保たれてなかったということだ。
ラブロック>スリリングなアイデアだね、閉塞的な社会感をぶち破るものがある。
ソフィー>逆よ!私にはより安定した状態にする為には犠牲が必要なようにとらえられたわ。
140「コンプレクシティへの招待」 複雑性の科学 ロジャー・リューイン COMPLEXITY Roger Lewin 1992 年 (訳: 糸川英夫 1993 年) 徳間書店
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