19 60年代末

ノーベル化学賞1977

散逸構造論

theory of dis-sipative structure

イリヤ・プリゴジン

1917〜

 

エントロピーの法則だけに従えば、世界は停止しつつある。

なぜこの宇宙には秩序や構造があるのか?その創造はなぜなされるのか?

 原子は放っておけば、無秩序に向かうとされるが、実際には放って置かれている原子などあるのだろうか?

どこかおかしい……

 少なくとも生物学的な世界はますます成長し組織を失うのではなく、より組織化されつつあるではないか!

 こうした疑問を持ち続けた化学者がいた。イリヤ・プリゴジンである。物理学と生物学、可逆な時間と不可逆な時間、秩序と無秩序、偶然と必然を一つの枠組みにいれてその相互関係に注目するとき、雄大な理論が作られた。それは議論にあたいするのは当然だが、この場合はさらに強力で威厳のあるものとなった。彼はその研究である「散逸構造論」で1977年にノーベル化学賞を受賞した。相対性理論、量子論以来の最重要科学的発見とされている。

 

ニュートンのモデルも当時の知的ゆらぎから派生した「文化的散逸構造物」のひとつであった。

散逸構造論 

ビーカーの水が底から温められて、暖められた温水だけ赤く変色し、ゆらゆら対流が起こりはじめた姿を想像してみるといい。

ビーカーの水の中にインクを垂らしてみるといい。たちまちの内にいっぱいに広がり、決して自らは元の一滴にもどることはない。

この均質さの度合いをはかるのがエントロピーだ。

エントロピーの法則では、この均質に至るプロセスは初期状態を与えれば全ては予測できるとする決定論にある。

しかし、インクは自ら水全体に広がろうとしているのではない。ただランダムに動いているだけなのだ。ではなぜランダムな動きのな中から、増大という一方方向の規則性が生じるのか?

ランダムな運動は相互に打ち消しあい、残ったのもの方へ、その傾向を生じさせるのである。

つまり、増大するのは、増大する確率が高いだけであって、そのことはいつも逆の傾向も存在している可能性もあるのである。

このエントロピーに逆行し秩序を形成するシステムの可能性を「ゆらぎ」という。

無秩序と混沌の中に常にある「ゆらぎ」が「ポジティブ・フィードバック」を引き起こした時、「自己組織化」の過程を通して、混沌から秩序ある構造が自発的に生じてくるのである。そしてこれは同時に線形的決定論も崩壊させるものである。世界は決定論でもなく自由論でもなく、どちらにも働くことを示すものである。

開放系 

さて、もう一歩考えを進めてみる。

非平衡状態にあるほど、「ゆらぎ」による「自己組織化」の可能性が高い。

つまりエントロピーが増大すると、非可逆性が強くなる。

確かに系にわずかに含まれているゆらぎはビーカーのような閉鎖系の中ではごく短い時間でエントロピーに打ち消されてしまう。

では、ビーカーの無い開放形のシステムではどうなるのか?

そうお察しのとおり、非平衡状態が保たれるのである。

これには常にエントロピーの入力と出力の格差の部分に発生するもであり、静的状態が保たれるのでなく、動的なプロセスが保たれるのである。

内部でエネルギーを消費(散逸)させる為、散逸構造論と呼ばれる。

窓の外を見てごらん。ハリケーンがきているだろ?これも太陽からのエネルギーによって自己組織化するシステムである。つまり、自己組織化の原動力は自己強化にあるのである。つまり、ある環境下では、小さな影響は除去されずに、強化されさえするのである。

こうしたポジティブ・フィードバックとネガティブ・フィードバックの結合はパターンを生まざるを得ない。

例えば水を少しお盆に落としてみてごらん。これには重力を受けて広がろうとする力と、表面張力で水玉になろうとする第2の力が働いている。何回繰り返しても消して同じ水滴のはじけ方をしないのは、お盆の上のほんの小さな凹凸や空気中のほこりなのの微少な変化がポジティブ・フィーバックによって増幅されるからだ。

分子の対流

分子間の影響

古典的予測

混沌とした衝突がランダムに起こり、中間的な色になる

分子は互いに隣り合ったものにだけ影響すると考えられていた。

実際の観測

分子の移動は規則的であり、ビーカーを上から覗けば赤い渦巻きの連続になる。

隣あわない分子にも影響をあたえ、ビーカーのなか全体として振る舞っていたのである。

この観測は、イリア・プリゴジンによって「散逸構造論」としてまとめあげらて、アインシュタインの相対性理論以来の現代科学の革新となり、1977年にノーベル化学賞を受賞した。

この観測は、より生物系にしか見られないと思われていた、自然に複雑な構造を構築するという力が、非生物にも現れるという驚異の発見であった。

そしてこの発見はいままで解明できなかった様々な問題を解き明かす鍵となったのである。

非生物系への鍵として

宇宙創世の問題を解き明かす重大な鍵となり

生物系への鍵として

生物と非生物の境界線が非常に狭くなったことを意味し、生命発生の問題に重大な鍵となる。

この理論はその後エンリッヒ・ヤンツによって「自己組織化する宇宙」論に飛躍する。

自己組織化とは、自然に自発的に秩序形成することである。これは、ふたとうりのモードがある。

保存的自己組織化は古くから観測されていたが、散逸的自己組織化は、プリゴジンの「散逸構造論」1997年によって、証明されたばかりである。

これは、19世紀以来第2段階までしかなかった、エントロピーの法則に新たに第3段階を加え、古典的熱力学を大きく覆した。

第1領域

平衡系:分子の運動や熱の移動がゼロの状態。

まったく均質でエントロピーはゼロの状態

第2領域

保存的自己組織化:

分子の運動や熱の移動がおこっている状態。

全ては集から放へと常に拡散平衡へと向かう。

形あるものは全て壊れる。

結晶構造もシステム内の保存力のつりあいによって進行したものと考える。

第3領域

散逸的自己組織化:

分子の運動や熱の移動がおこっている状態。

ある分岐点をこすと、空間的、時間的に分子は離れていても秩序を形成する

 

孤立系

閉鎖系

開放系

平衡

非平衡

 

 

 

C散逸構造論

従来Cの領域は例外として片付けられていたが、ここから全く新しい世界観が築かれたのである。

この発見の重要性は創造のプロセスの科学と読み直すことができ、科学が手を出せずにいた「生命の神秘」におおきく前進したのだ。 いままではベルグソンなどのように「純粋生命体(エラン・ヴィタル)」のように超自然的生命の存在を持ち出すしかなかったが、 ようやく新たなウィンドウが開かれた。

例えば、貴方の身体の細胞は、脳を除き数年で全部交換されている。しかしなぜ貴方は貴方という構造であり続けられるのか?

生命も外部からエネルギーを取り入れて、中でエントロピーを消費し、それを外部に代謝していくことによって、秩序を形成していくシステムといえる。したがって散逸構造といえる。

散逸構造論の発見は、人間機械説に終止符を打つものであり、同時に環境との一体化の重要性の再発見となった。

散逸構造論にはもうひとつ重要な「ゆらぎ」という概念がある。エネルギーの流れが複雑になるとある時点で、ゆらぎが生じ自己の系が破壊されるほどの変化を経過し、やがて、新たな系を再構築する。つまり生物は成長するにつれどんどん新しい構造が変化していくのである。すなわちこれは進化である。又ゆらぎが外部からももたらされる。

また生命に限らず社会構造にも応用は図られる。

関連→システム論史

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